エタノール Ethanol

5-25-2017 Last update

 

このページは エタノール @本家UBサイト に恒久的に移転しました。このページもネット上に残っていますが,最新の情報はリンク先を参照して下さい。

 


  1. 概要: エタノールとは
    • 飲酒の影響
  2. その他生物の代謝への影響
  3. 生合成
  4. 分解
  5. 炭素源としてのエタノール
  6. 実験試薬としてのエタノール

その他のアルコール

 

関連する分子と代謝経路

 

関連する遺伝子

  • アルコールデヒドロゲナーゼ: ADH


概要: エタノールとは

エタノール ethanol は右のような構造をもつ 1 価のアルコール alcohol である。エチルアルコールとも呼ばれ,英語での発音は [éθənɔ̀ːl] である。主な特徴は,


  • 飲むと酔っ払う。
  • 酵母などいくつかの生物は,解糖 glycolysis の結果として作られるピルビン酸 pyruvate をエタノールに変換することができる(アルコール発酵)。

飲酒の影響

> 多量の飲酒は有害であるが,適量ならば心臓血管系の健康維持に有効であることが知られている(5I)。


特異的な受容体は同定されていないが,Toll-like receptor 4 (TLR4) (3) や GABAA receptor を活性化することが知られている。


その他生物の代謝への影響

C. elegans

1 - 2 % の低濃度のエタノールで 寿命が長くなる ことが知られている(4)。この現象は,インスリン様経路の変異体ではみられないため,インスリンに依存的であると考えられている。  → インスリンシグナルと寿命

 

> 低濃度のエタノールで寿命が延びることを示した論文(4)。

: 1 - 2% で寿命を延長,4 - 5% で toxic だった。

: Egg - young adult のどの時期に expose を開始しても, 寿命延長効果に差はみられなかった。

: 餌である大腸菌の生育には影響がみられなかったので,エタノールの直接の影響と考えられる。

: Development, fertility, chemotaxis は少し阻害した。

: Age-1, sir2.1 mutants では,エタノールによる寿命延長がみられなかった。

 

> 低濃度のエタノールで,発現が変化する遺伝子を NGS で解析した論文(5)。

: エタノールをアセチル CoA に変換する経路の遺伝子の発現が増える。

: たとえば アルコールデヒドロゲナーゼ sodh-1 が 103 倍に。

: 脂肪酸合成系の遺伝子発現も増える。エタノールから脂肪酸を合成していると思われる。

 

> 高濃度のエタノールは有害であり,生体が動けなくなる EC50 は 1 M である(5I)。

: 1.8 M で 24-hour lethality が観察され,0.5 - 1.7 M では繁殖抑制などが起こる。


生合成



分解

エタノールは,哺乳類では以下の経路で代謝される。エタノールの代謝に関わる主要な臓器は肝臓である。

 

  1. アルコールデヒドロゲナーゼ ADH によってアセトアルデヒドになる。
  2. アルデヒドデヒドロゲナーゼによって酢酸 acetic acid になる。
  3. 酢酸は,アセチル CoA リガーゼによって補酵素 A と結合し,アセチル CoA として TCA 回路に入る。

 

 

薬とお酒の併用がいけないのは,両者の分解が肝臓で競合するためである。薬の分解が遅くなって副作用が重くなるほか,悪酔いする可能性が上がる。


炭素源としてのエタノール

> 酢酸菌 acetic acid bacteria の栄養源として,培養に使われる(1)。

: 酢酸菌とは,エタノールを酸化して酢酸を生産する細菌の総称である。

: 細胞膜にあるアルコール脱水素酵素 ADH,アセトアルデヒド脱水素酵素がエタノール分解に関わる。

: 食酢を醸造する際に用いられる Acetobacter aceti が有名である。


> 酵母ではエタノールには老化促進効果があり,炭素源をグリセロールにすることで寿命が延びる(2)。

> 自然界にもエタノールは存在する。例えばフルーツには 0.9 - 124 mM のエタノールが含まれる(5D)。


実験試薬としてのエタノール

エタノールを溶液に添加して遠心分離をすることで,DNA,RNA,タンパク質などを沈殿させる手法を エタノール沈殿 ethanol precipitation という。生物学の実験で非常に一般的な手法である。

 

> パイナップルの酵素ブロメライン bromelain をエタノール沈殿で簡単に精製した論文(6)。

: 一般に,水にエタノールを添加すると温度が上がる。タンパク質への影響を抑えるため,ゆっくり入れる。

: パイナップルの茎と皮をから,蒸留水とミキサーで抽出。これに徐々にエタノールを加えていく。

: 70% (v/v) EtOH 添加後,bromelain の 99.7% (活性ベースで) が沈殿した。

: 凍結乾燥しても,10% グルコースを溶媒に加えておけば 90% 程度活性が維持された。

: 280 nm で励起すると,345 nm の蛍光が観察される。これに関わるのは,活性中心にある Tyr。

: 凍結乾燥後にも,標品と同様 345 nm の蛍光がみられた。よって Tyr 周辺の構造は破壊されていない。


コメント: 0

References

  1. Yakushi T & Matsushita K 2010a. Alcohol dehydrogenase of acetic acid bacterial: structure, mode of action, and applications in biotechnology. Appl Microbiol Biotechnol 86, 1257-1265.
  2. Wei et al. 2009a. Tor1/Sch9-regulated carbon source substitution is as effective as calorie restriction 
  3. アルコールによる神経炎症性障害に関連した行動ならびに認知障害に対するTLR4の影響. Pdf file.
  4. Yu et al. 2011a. Beneficial and harmful effects of alcohol exposure on Caenorhabditis elegans worms. Biochem Biophys Res Comn 412, 757-762.
  5. Patananan et al. 2015a. Ethanol-induced differential gene expression and acetyl-CoA metabolism in a logevity model of the nematode Caenorhabditis elegans. Exp Gerontol 61, 20-30.
  6. Soares et al. 2012a. Purification of bromelain from pineapple wastes by ethanol precipitation. Sep Purif Technol 98, 389-395.