統合失調症の治療薬

7-6-2015 updated

 

  1. 概要
  2. GABA 系に作用するもの
  3. グルタミン酸受容体に作用するもの
  4. ドーパミン受容体に作用するもの
  5. セロトニン系に作用するもの
  6. Phosphodiesterase inhibitor
  7. トレーニングの効果



概要

統合失調症の治療に用いられる薬の多くは ドーパミン受容体,とくに ドーパミン D2 受容体 のアンタゴニスト(拮抗して作用を阻害する)である。一部,アゴニストも用いられる。

 

> うつ病症状の治療には数週間を要するが,あまり効果的でなく副作用が出る場合もある(11I)。

 

> D2R の拮抗阻害は 24 - 48 h で起こるが,薬の作用は最初の数日で高いため間接的な作用かもしれない(8I)。

> 陽性症状に対するこれらの薬の効果は限定的である(7I)。

: 非定型抗精神病薬 atypical antiphychotics は,陽性症状を弱めるが認知症状には効きにくい(9I)。

 

> 患者は一般に NMDA 受容体アンタゴニストに対する感受性が高い(6I)。



GABA 系に作用するもの

ベンゾジアゼピン Benzodiazepine

GABAA受容体に対する GABA の作用を強め,鎮静,催眠,抗不安などの効果をもたらす。

 

> 8 週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSS スコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N = 16(全体で 28,この薬の投与が 16 人).

 

 

アルプラゾラム Alprazolam

ベンゾジアゼピン系の抗不安薬の一種。半減期が 14 時間と長く,服用後 15 - 30 分程度で作用が見られることから,肩凝りの症状の軽減などにも使われる。筋弛緩作用ももつ。GABA 受容体に作用する。

 

 


グルタミン酸受容体に作用するもの

mGlu5 グルタミン酸受容体の positive allosteric modulator である LSN2463359 が,MAM model および PCP 投与モデル という 2 つの統合失調症モデルで,逆転学習の能力を改善することが報告された(12)。


ドーパミン受容体に作用するもの

スルピリド Sulpiride

ドーパミン受容体 2 のアンタゴニスト。統合失調症,うつ病,胃潰瘍,十二指腸潰瘍などの治療薬。日本とヨーロッパでは使われているが,アメリカでは未承認である。

 

> 統合失調症モデル MAM rat で,海馬 および mPFC からの NAc へのインプットを正常化する(4R)。

 

 


クロザピン Clozapine

世界初の第二世代抗精神病薬で,1971 年にヨーロッパで使用が始まった。副作用が強いことから,1975 年に一度販売が停止されたが,他の抗精神病薬で治療困難な統合失調症に効果がある ことが証明され,アメリカでは 1989 年より使用が再開された。日本ではクロザリル(ノバルティスファーマ)として 2009 年から使われている。


他の薬剤に比べ,D2R への親和性が極めて低い ことが特徴である(14)。


> ラットで 5-MeO-DMT による mPFC の発火の上昇と脳波の乱れを抑制した(10)。

: 5-MeO-DMT はセロトニン受容体 5-HT2A-R のアゴニストで。アマゾンのある植物の幻覚成分。

: とくに low frequency oscillation が低下するが,これをクロザピンがレスキューした。

 


クロナゼパム Clonazepam

抗不安,抗けいれん作用が他のベンゾジアゼピン系薬剤よりも強い。

 

 


ハロペリドール Haloperidol

D2R アンタゴニストで,抗幻覚作用などを有するブチロフェノン系の抗精神病薬である。

 

> 8週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSSスコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N=1(全体で28,この薬の投与が1人), 4 mg/day.

 

> 統合失調症モデル MAM rat はこの薬に対して感受性が高い。

: 神経成長因子 NGF の合成が striatum で促進される(5)。

: 動物モデルの陽性症状 spontaneous hyperactivity の抑制には,対照区と同様の効果しかない(6)。

: NMDA受容体のアンタゴニスト MK-801-induced hyperactivity には,対照区よりもよく効く(6)。

 

 


オランザピン Olanzapine

構造からはドーパミン受容体 D1 - D5 のアゴニストであることが予想され,またセロトニン受容体にも高い親和性をもつ。作用機序は明らかにはなっていないが,抗精神作用は主にドーパミン D2 受容体への拮抗作用によると考えられている。セロトニン受容体への拮抗作用については,様々な説がある。

 

> 8週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSSスコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N=10(全体で28,この薬の投与が10人), 10-25 mg/day.

 


セロトニン系に作用するもの

クエチアピン Quetiapine

ジベンゾチアゼピン系に分類される非定型抗精神病薬であり,ドーパミンD2受容体に比較して,セロトニン5-HT2受容体への拮抗作用が強いのが特徴である。また,ヒスタミンH1受容体など,他の多くの受容体に対しても低い親和性を有している。

 

> 8週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSSスコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N=4(全体で28,この薬の投与が4人), 200-800 mg/day.

 

 


リスペリドン Risperidone

単一化合物で錐体外路系の副作用が少なく,陰性症状に対しても有効である点が特徴である。ドーパミン系よりセロトニン系への作用が強い。Typical, atypical の中間の作用を示す(15I)。使用量は他の薬と比較して一般に低い。

 

> 8週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSSスコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N=11(全体で28,この薬の投与が11人), 2 - 6 mg/day.

 

 


ズクロペンチキソール Zuclopenthixol

酢酸塩 zuclopenthixol acetate を主成分とする薬は,クロピクゾール clopixol acuphaseである。

 

> 8週間の向精神薬投与実験(初期の患者,PANSSスコア改善)に用いられた薬の一つ(3)。

: N = 2(全体で28,この薬の投与が2人), 25 mg/day.

 

 


トレーニングの効果

若い時期 adolescence におけるトレーニングは,統合失調症の予防に効果があると考えられている。


> NVHL model で,adolescence training が成長後の症状を軽減することを示した論文(13)。

: 認知機能に難のある子供は,のちに統合失調症を発症するリスクが高い。

: トレーニングしたテスト以外の行動試験でも,成績が改善する。単に試験に慣れたということではない。

: 脳波の状況も改善。

: 脳の形態は回復しないので,形態異常は cognitive impairment の直接の原因ではない。

: Parvalbumin-containing cell の数が,トレーニングで減少する。


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References

  1. McGuire et al. 2008a (Review). Functional neuroimaging in schizophrenia: diagnosis and drug discovery. Trends Pharmacol Sci 29, 91-98.
  2. 社団法人 日本精神科評価尺度研究会ウェブサイト http://jsprs.org/scales/panss.html
  3. Kelemen et al. 2013a. Perceptual and cognitive effects of antipsychotics in first-episode schizophrenia: the potential impact of GABA concentration in the visual cortex. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry 47, 13-19.
  4. Belujon et al. 2013a. Disruption of prefrontal cortical-hippocampal balance in a developmental model of schizophrenia: reversal by sulpiride. Int J Neurophychopharmacol 16, 507-512.
  5. Fiore et al. 2008a. Clozapine or Haloperidol in rats prenatally exposed to methylazoxymethanol, a compound inducing entorhinal-hippocampal deficits, alter brain and blood neurotrophins’ concentrations. Ann Ist Super Sanita 44, 167-177.
  6. Le Pen et al. 2011a. Effect of antipsychotics on spontaneous hyperactivity and hypersensitivity to MK-801-induced hyperactivity in rats prenatally exposed to methylazoxymethanol. J Phychopharmacol 25, 822-835.
  7. Chin et al. 2011a. Structural abnormalities revealed by magnetic resonance imaging in rats prenatally exposed to methylazoxymethanol acetate parallel cerebral pathology in schizophrenia. Synapse 65, 393-403.
  8. Perez et al. 2012a. Aberrant dopamine D2-like receptor function in a rodent model of schizophrenia. J Pharmacol Exp Ther 343, 288-295.
  9. Brown et al. 2013a. Preclinical evaluation of non-imidazole histamine H3 receptor antagonists in comparison to atypical antipsychotics for the treatment of cognitive deficits associated with schizophrenia. Int J Neuropsychopharmacol 16, 889-904.
  10. Riga et al. 2014a. The natural hallucinogen 5-MeO-DMT, component of Ayahuasca, disrupts cortical function in rats: reversal by antipsychotic drugs.  Int J Neuropsychopharmacol 16, 889-90.
  1. Tye et al. 2013a. Dopamine neurons modulate neural encoding and expression of depression-related behaviour. Nature 493, 537-541.
  2. Gastambide et al. 2012a. Selective remediation of reversal learning deficits in the neurodevelopmental MAM model of schizophrenia by a novel mGlu5 positive allosteric modulator. Neuropsychopharmacology 37, 1057-1066.
  3. Lee et al. 2012a. Early cognitive experience prevents adult deficits in a nurodevelopmental schizophrenia model. Neuron 75, 714-724.
  4. 『Clozapine の薬理』 -主たる作用部位はどこか?- Link.
  5. Molina et al. 2003a. Cerebral metabolism and risperidone treatment in schizophrenia. Schizophr Res 60, 1-7.