10-28-2016 updated
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1. 概要
2. グルコースの代謝
3. 外的要因の影響
グルコースは哺乳類の脳 brain の主要なエネルギー源である。解糖 や TCA回路 など基本的な代謝経路は他の臓器と共通する部分が多い。
> 脳は代謝が活発な器官で,ヒトではその重さから期待される量の約 10 倍早く代謝を行っている(1I)。
: 体重の 2%,総エネルギー消費の 20% を占める。
> グルコースは,主にグルタミン酸 Gln を神経伝達物質とする神経活動に使われる(9)。
: MRI study で,Glu - Gln cycle とグルコース消費量に相関がみられることから。
> 脳内にグルコースは 1 mmol/kg wet weight ほど存在し,血液注射でその 9 倍程度まで増える(2)。
グルコースは脳に輸送される際に血液脳関門 BBB, blood-brain barrier を通過する。これはトランスポーター GLUT-1 を介した促進拡散 facilitated diffusion であり,その特徴は以下の通り。
> 血糖値と脳内のグルコース濃度は,reversible Michaelis-Menten model に従う(7R)。
: 血糖値 4 - 30 mM の範囲で,脳のグルコースは 1.5 - 8 µmol/g。ほぼ比例関係を示す。
: かつては standard Michaelis-Menten model で記述されていた。
> 脳へのグルコース輸送の Km は10.7 mM,Vmax/CMRgl = 5.8 という報告がある(8)。
> トランスポーターの数が律速になり得るため,血糖値がある程度高くなると飽和する(7I)。
Neural communication がグルコース代謝の大部分を占めることがわかっているが,これは麻酔された状態でもそれほど落ちることはなく,どのような脳内活動に使われているかわからない。dark energy とも呼ばれる。
> 0.25 - 0.50 µmol/min/g の速度で酸化されている(生物種不明,1)。
> 酸化の 60 - 90% は glutamatergic neuron で起こる(1)。
文献1より引用。ヒトの脳で,グルコースの代謝速度が速い部分を赤で,低くなるにつれて黄色->緑->黒のように表してある。左側が前方である。約50名のヒトのPETデータをまとめたもの。
グルコース代謝は後頭部 ventral posterior reigons で高いことがわかる。
大脳皮質 cortex のうち,代謝速度の高い部分(50 - 70 µmol/100g/min)は
大脳皮質以外では,
で代謝が高かった。
興味深いことに,このグルコース消費が高い領域は,fMRIで調べた脳の活動が活発な領域と一致する。これらの領域は脳の他の領域との連携 connectivity が高いことでも知られている。当然と言えば当然だが,連携しながら活発に活動している領域ほどたくさんグルコースを使うということ。
右の図では,グルコース消費速度 CMRGlu (cerebral metabolic rate of glucose) とfMRIのシグナルの強さが一致する部分を黄色で示してある。
また,下のグラフでは両者が高い相関を示すことがわかる。
ただし,この論文はモデリングの基礎としている Hopfield のモデルを一部誤解している恐れがあり,(どんな論文でも当然そうであるが)丸ごと信じてよいものではない。
小脳 cerebelum のグルコース代謝は,大脳皮質よりも全般に低いこともわかる。
> 老化でヒト neuron のグルコース代謝(TCA flux)は約30%低下するが,gliaのそれは同程度増大する(3)。
> Prefrontal cortex のグルコース代謝は,肥満の指標である BMI と逆相関する(6)。
: N=21, 22-44 years, FDG-PET。この年齢域では,加齢によるグルコース代謝の影響はみられない。
: 肥満が原因とは限らない。むしろPFCのグルコース代謝が低い人が肥満になりやすいのかもしれない。
脳の異常が原因と考えられている神経変性疾患では,原則としてグルコース代謝率が低下する。
アルツハイマー病 Alzheimer's disease, パーキンソン病 Parkinson's disease, ハンチントン病 Hantington's disease,側頭葉てんかん temporal lobe epilepsy で報告がある(10)。
> ラットFDG-PET: 虚血の生じた領域全体のグルコース代謝が低下。やや回復するが,28日後でも低いまま(5)。
> グルコースは視床下部にある LH (lateral hypothalamic) neuron の発火を阻害する(4D)。
: ラットでは,LHが刺激されると NTS にある gustatory neuron の発火に影響が出る。
> グルコースは視床下部の VMN neuron の発火を促進する(4D)。なお,VMN は食欲を抑制する満腹中枢。
: VMN は交感神経系を活性化し,血中ノルエピネフリン量を上昇させる。