PLoS One と査読システムに関する考察

2019/01/13 Last update

 

このページは PloS ONE @本家UBサイト に恒久的に移転しました。このページもネット上に残っていますが、最新の情報はリンク先を参照して下さい。

 


  1. PLoS One とは
    1. 掲載基準
    2. 創刊の経緯
  2. データ; 論文数の推移など
    1. 論文数, IF の推移
    2. 実際に投稿してみた感想
  3. 評判
    1. この編集方針は守られているか?
    2. PLoS One 論文は業績として評価されるか?
  4. 意見
  5. 気になる PLoS One 論文集


PLoS One とは

PLoS は Public Library of Science の略で,税金を原資として得られた研究成果は,無料で一般公開されるべきであるという理念の下,複数のオープンアクセス誌を刊行している。PLoS One は 2006 年 12 月に創刊された学術雑誌である(2)。

 

BMC, Hindawi シリーズなど,最近になってオープンアクセス誌が続々と発刊されているが,その先駆けとなる存在である。略称は NLM だと PLoS One, ISO だと PLoS ONE らしい。このサイトでは,なんとなく小文字で行くことにする。

 

以下に示すような一風変わった編集方針をもっているため,何かと話題になることが多い。


  • PLoS 社の理念どおりオープンアクセスで,著者が掲載料を支払う。$1350(2014年10月11日現在)と高いが,他の PLoS シリーズはもっと高い。
  • 「研究の重要性は掲載時点ではわからず,その後の議論を通じて決まる」という考えのもと,研究手法とそこから導かれる結論が,科学的に記録する価値のあるものならが,その重要性は問わずに掲載する
  • 受理された論文は直ちに Web 上で公開され,コメントがつけられるようになっている。紙媒体はない。コメント,閲覧数,ダウンロード数,引用数などが論文の価値を決めることになる。

 

とくにインパクトが大きいのが赤字の部分で,これは公式ページでも明言されている(1)。

 

Unlike many journals which attempt to use the peer review process to determine whether or not an article reaches the level of 'importance' required by a given journal, PLOS ONE uses peer review to determine whether a paper is technically sound and worthy of inclusion in the published scientific record. Once the work is published in PLOS ONE, the broader community is then able to discuss and evaluate the significance of the article (through the number of citations it attracts; the downloads it achieves; the media and blog coverage it receives; and the post-publication Notes, Comments and Ratings that it receives on PLOS ONE etc).

 

文献 2 も PLoS 社の人が書いているものなので,信用性は高いだろう。

 

すべての論文に正式な査読を行います。ただし査読の際、科学的な健全性のみを審査します。つまり、その論文は厳格であるか、倫理上適切なものか、報告の仕方は適切か、データを基に結論が導かれているかなど、極めて客観的な視点から審査するのです。


 

掲載基準

公式ページに記載されている Criteria for publication は以下の通り。


  1. The study presents the results of primary scientific research.
  2. Results reported have not been published elsewhere.
  3. Experiments, statistics, and other analyses are performed to a high technical standard and are described in sufficient detail.
  4. Conclusions are presented in an appropriate fashion and are supported by the data.
  5. The article is presented in an intelligible fashion and is written in standard English.
  6. The research meets all applicable standards for the ethics of experimentation and research integrity.
  7. The article adheres to appropriate reporting guidelines and community standards for data availability.


それぞれの項目に注意書きがついていて,Reviewer にもこの編集方針に沿った査読が求められる。


創刊の経緯

PLoS 社は,上記の考えのもとに PLoS Biology を 2003 年に創刊した。これはいわゆるハイ・インパクト誌であり,2013 年の impact factor は 11.77 である。審査も厳しくする必要があり,あまり多くの論文を載せることができない。すると,雑誌を維持するのに十分な掲載料を集めることができなくなる(4)。

 

そこで,言ってみれば何でも載せる金集めの雑誌として作ったのが PLoS One であるという見方がある(4)。この意見も Web ではたくさんみつかるが,もちろん PLoS 側からの公式発表はない。



データ; 論文数の推移など

論文数,IF の推移

いくつかのサイトでも述べられているように,PLoS One の論文数は増加傾向にあり,とくにインパクトファクター(IF)が公開された 2010 年からの増加が著しい。IF は 4 台を維持していたが, 2012 年からは減少に転じている。


採択率は約 70% と言われているが,この数字の公式な根拠はまだ見たことがない。


図は 10-18-2014 に MATLAB で作成。コードは collection 2 に。

実際に投稿してみた際の感想

上記の斬新な編集方針とは対照的に,投稿の際のルールはかなり厳格 で,他の雑誌よりも融通が利かない印象だった。

  • 倫理 ethics の規定が厳しい。動物実験が含まれている場合は,委員会の承認番号を記載することが求められる。
  • 原稿の形式が規定に合っていないと受け付けてくれない。これはどの雑誌でもみられる傾向だが,とくに以下の点などは普通の雑誌よりも厳しい気がする。
  1. 著者の所属を示す記号 ^ や *,Equally contributed の示し方などは,自分で適当な記号を使える雑誌もあるのだが,PLoS One の場合は正確に投稿規定の通りでなければならない。
  2. 原稿の見出し Introduction, Materials & Methods などは,Word の 見出し機能を使って作らなければならない。 適当に太字にしたり,文字サイズを変えたりして作っていると受け付けてくれない。
  3. 図は α チャンネルというものを取り除かないと quality check をパスしない。

評判

この編集方針は守られているか?

 実際に PLoS One の査読が回ってきたことが何度かあり,以下の点についての意見を求めると書かれている。

 

  1. Recommendation (Accept, Minor Revision, Major Revision, Reject)
  2. Do you have any potentially competing interests? If none, type "None." Our policy on competing interests can be found at http://www.plosone.org/static/policies.action#competing. 
  3. Please answer the following questions:
    • Is the manuscript technically sound, and do the data support the conclusions?  (Yes, No, Partly). Please explain. 
    • Has the statistical analysis been performed appropriately and rigorously? (Yes, No, I don’t know, N/A). Please explain.
    • Does the manuscript adhere to standards in this field for data availability? (Yes, No). Please explain.
    • Is the manuscript presented in an intelligible fashion and written in standard English? (Yes, No). Please explain. 
  4. Please indicate whether any of your comments should remain confidential to the editor. 


以上を見た限りでは,編集方針に沿った査読を求めていると言えるだろう。 3 の 3 番目の項目がやや解釈しづらいところだが,これは  data availability が標準に達しているかを聞いた質問である。Data availability とは,論文に示されたデータを読者が手に入れられるかどうかということであり(3),論文に十分なデータが載っているのかどうかということではない。


> このページをみると,査読の書き方は微妙に変化しているようだが,基本的な方針は踏襲されていそうだ。


> 3 人の査読者に,通常の雑誌と同じような審査を受けたという意見も出されている(2013年)。

: 図しか見ていないが,t 検定の多重比較や triplicate の測定で SD を算出というのが平気で出てくる。

: 薬剤の dose を振っておきながら control との t 検定しかしないというのも,なかなかにナンセンスだ。

: 論文のほうに問題があったのではないかという気がする。

 


意見

概要

論文の価値はあくまで論文自体で評価されるべきもので,間違っても雑誌のインパクトファクターで評価すべきではない。これは大昔から言われてきた正論であったが,「そうは言っても・・・」のが正直な研究者の意見であったように思う。

 

ところが,最近になってようやくこの正論が現実味を帯びてきた。PLoS One の成功は,これが金稼ぎのために創刊された雑誌であろうとなかろうと,間違いなくこの方向づけに大きな役割を果たすものであった。また,STAP 細胞の顛末も Nature など一流紙への掲載がどれだけ政治的に決まるものであるかを実感する良い機会であった。

 

「雑誌名 = 論文の価値」というシステムは,数名の編集者・査読者が論文の価値を決めてしまうことを意味する。この査読システムは,通信手段がないために,極めて少人数しか論文の内容についての意見を共有することができなかった時代に,査読者の権威をもって論文の質をある程度保証するための仕組みであり,極端なことを言えばネットがない時代の遺物である


オープンアクセス化,事後評価の流れはもはや止まらないと考えている。現在の問題点は,PLoS One のサイトをみてもコメントがあまりついていないように,事後評価のシステムが確立していないことだろう。今後の方策に対する考えも徐々に書いていくつもりであるが,まずは既に公開されている以下の宮川剛先生の提案(5)には全面的に賛意を表したいと思う。

 

  1. 公的研究費による論文のオープンアクセスの義務化を!
  2. 公費による紙媒体の科学雑誌の購読の制限を!
  3. 出版後評価の積極的仕組みを!
  4. 日本発の論文をアピールする仕組みを!
  5. 報道時に論文URLの表示の義務化を!

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References

  1. PLoS One official website.
  2. PLoS ONE と OA メガジャーナルの興隆. Web (pdf).
  3. Open access science publisher demands full availability of data. Web.
  4. PLoS の理想と現実. Web.
  5. 論文のオープンアクセス化を推進すべき7つの理由と5つの提案. Web.
  6. 佐藤 2014a. PLOS ONE のこれまで,いま,この先. 情報管理 57, 607-617. Available on the web.