関連項目
論文関連
PLoS は Public Library of Science の略で,税金を原資として得られた研究成果は,無料で一般公開されるべきであるという理念の下,複数のオープンアクセス誌を刊行している。PLoS One は 2006 年 12 月に創刊された学術雑誌である(2)。
BMC, Hindawi シリーズなど,最近になってオープンアクセス誌が続々と発刊されているが,その先駆けとなる存在である。略称は NLM だと PLoS One, ISO だと PLoS ONE らしい。このサイトでは,なんとなく小文字で行くことにする。
以下に示すような一風変わった編集方針をもっているため,何かと話題になることが多い。
とくにインパクトが大きいのが赤字の部分で,これは公式ページでも明言されている(1)。
Unlike many journals which attempt to use the peer review process to determine whether or not an article reaches the level of
'importance' required by a given journal, PLOS ONE uses peer review to determine whether a paper is technically sound and worthy of inclusion in the published scientific record. Once the
work is published in PLOS ONE, the broader community is then able to discuss and evaluate the significance of the article (through the number of citations it attracts; the downloads it achieves;
the media and blog coverage it receives; and the post-publication Notes, Comments and Ratings that it receives on PLOS ONE etc).
文献 2 も PLoS 社の人が書いているものなので,信用性は高いだろう。
すべての論文に正式な査読を行います。ただし査読の際、科学的な健全性のみを審査します。つまり、その論文は厳格であるか、倫理上適切なものか、報告の仕方は適切か、データを基に結論が導かれているかなど、極めて客観的な視点から審査するのです。
公式ページに記載されている Criteria for publication は以下の通り。
それぞれの項目に注意書きがついていて,Reviewer にもこの編集方針に沿った査読が求められる。
PLoS 社は,上記の考えのもとに PLoS Biology を 2003 年に創刊した。これはいわゆるハイ・インパクト誌であり,2013 年の impact factor は 11.77 である。審査も厳しくする必要があり,あまり多くの論文を載せることができない。すると,雑誌を維持するのに十分な掲載料を集めることができなくなる(4)。
そこで,言ってみれば何でも載せる金集めの雑誌として作ったのが PLoS One であるという見方がある(4)。この意見も Web ではたくさんみつかるが,もちろん PLoS 側からの公式発表はない。
いくつかのサイトでも述べられているように,PLoS One の論文数は増加傾向にあり,とくにインパクトファクター(IF)が公開された 2010 年からの増加が著しい。IF は 4 台を維持していたが, 2012 年からは減少に転じている。
採択率は約 70% と言われているが,この数字の公式な根拠はまだ見たことがない。
図は 10-18-2014 に MATLAB で作成。コードは collection 2 に。
上記の斬新な編集方針とは対照的に,投稿の際のルールはかなり厳格 で,他の雑誌よりも融通が利かない印象だった。
実際に PLoS One の査読が回ってきたことが何度かあり,以下の点についての意見を求めると書かれている。
以上を見た限りでは,編集方針に沿った査読を求めていると言えるだろう。 3 の 3 番目の項目がやや解釈しづらいところだが,これは data availability が標準に達しているかを聞いた質問である。Data availability とは,論文に示されたデータを読者が手に入れられるかどうかということであり(3),論文に十分なデータが載っているのかどうかということではない。
> このページをみると,査読の書き方は微妙に変化しているようだが,基本的な方針は踏襲されていそうだ。
> 3 人の査読者に,通常の雑誌と同じような審査を受けたという意見も出されている(2013年)。
: 図しか見ていないが,t 検定の多重比較や triplicate の測定で SD を算出というのが平気で出てくる。
: 薬剤の dose を振っておきながら control との t 検定しかしないというのも,なかなかにナンセンスだ。
: 論文のほうに問題があったのではないかという気がする。
論文の価値はあくまで論文自体で評価されるべきもので,間違っても雑誌のインパクトファクターで評価すべきではない。これは大昔から言われてきた正論であったが,「そうは言っても・・・」のが正直な研究者の意見であったように思う。
ところが,最近になってようやくこの正論が現実味を帯びてきた。PLoS One の成功は,これが金稼ぎのために創刊された雑誌であろうとなかろうと,間違いなくこの方向づけに大きな役割を果たすものであった。また,STAP 細胞の顛末も Nature など一流紙への掲載がどれだけ政治的に決まるものであるかを実感する良い機会であった。
「雑誌名 = 論文の価値」というシステムは,数名の編集者・査読者が論文の価値を決めてしまうことを意味する。この査読システムは,通信手段がないために,極めて少人数しか論文の内容についての意見を共有することができなかった時代に,査読者の権威をもって論文の質をある程度保証するための仕組みであり,極端なことを言えばネットがない時代の遺物である。
オープンアクセス化,事後評価の流れはもはや止まらないと考えている。現在の問題点は,PLoS One のサイトをみてもコメントがあまりついていないように,事後評価のシステムが確立していないことだろう。今後の方策に対する考えも徐々に書いていくつもりであるが,まずは既に公開されている以下の宮川剛先生の提案(5)には全面的に賛意を表したいと思う。