Blood oxygen level-dependent (BOLD) signal

10-27-2016 updated

  1. 概要: BOLDとは
  2. 神経の発火と BOLD
  3. グルコースが BOLD に及ぼす影響
  4. BOLD 理論が適用できない場合

関連項目




概要: BOLDとは

BOLD とは MRI 画像に現れるコントラストのことで,脳 brain の血液の酸素量に依存していることからこのように名付けられた(8)。現在では,酸素量だけでなく,血流 CBF など複数のパラメーターを反映していることがわかっている(8)。

 

BOLD 信号は,デオキシヘモグロビン deoxyhemoglobin が常磁体性 paramagnetic substance であり,オキシヘモグロビン oxyhemoglobin は反磁性体 diamagnetic substance であることに由来している。すなわち,

 

  1. 神経 neuron の活動によって周辺の酸素が消費されると,それを補うためにその領域の血流が増える。
  2. 血流によってオキシヘモグロビンが運ばれてくるため,神経活動が活発な領域ではその相対量が増える。(酸素を消費するが,逆にオキシヘモグロビンの量は増えるので注意)
  3. デオキシヘモグロビンの相対量が低下することは,その領域の静磁場が均一(注2)になることを意味する。したがって MR 信号は増加する(注1, 文献2)。
  4. 以上の原理から,血流動態を MRI 画像のコントラストとして表現することが可能であり,この変化する成分を BOLD 信号と名付けた。

 

この関係は 「BOLDでは d と d は重ならない」 と覚えよう。

 

 

発見の経緯など


BOLD シグナルを最初に報告したのは Ogawa et al.(6,9,10)である(8)。7 または 8.4 T の高磁場でラット脳の gradient echo 画像を取得した際に,太さの異なる黒い線が現れることを発見した(図,文献 6 より転載)。なお,この線は spin-echo 画像では見えない。

 

すぐにこの線は血管 blood vessel であることがわかり,上に示したようにデオキシヘモグロビン量の変化を検出していることが明らかになった。この変化は 1 年後にネコで,2 年後には複数のグループからヒトで報告された(8)。

 

注1

MRIでの磁気共鳴信号は,水分子に由来する。信号を取得する範囲 voxel 内の静磁場は完全に均一ではなく,その不均一さの影響により磁気共鳴信号は減衰する。これが T2* 緩和である。

 

その結果,T2強調画像において,静磁場が不均一であるほど画像信号が低下し,BOLDとして検出されることになる。なお,オキシヘモグロビンもその反磁性性のため静磁場を乱すが,その程度はデオキシヘモグロビンに比べてはるかに小さい(2)。

注2

静磁場の不均一性の指標として,apparent transverse relaxation rate (R2*) がある(2)。R2*については次の式が成り立つ(2)。∝ は比例関係を示す。

 

R2* ∝ (1-Y)・b



ここで,Y は血液酸素飽和度,b は血液体積比である。

また,血液中のオキシヘモグロビン量を O ,デオキシヘモグロビン量を D とすると,

 

Y = O/(O+D) かつ b ∝ O+D

 

なので,R2* は結局 D に比例することになる。

T2*強調画像におけるMRI信号の変化量は,静磁場の変化量 ΔR2* に比例するので,ΔD にも比例することになる。


神経の発火 neuronal firing と BOLD: neurovascular coupling

Firing はエネルギーを消費するプロセスであり,発火後には ATP の合成が必要となる。そのため発火した部位には優先的に血液が流入し,含まれるオキシヘモグロビンが増えるために磁場が均一になり,MR 信号が増える。これが BOLD の原理である。

 

したがって,firing が増えた脳領域(感覚刺激,病気,薬などの原因で)では,BOLD 信号も増える ことが予想される。これは実際に実験的に何度も確かめられている。


> Spontaneous spiking activity よりも,活動電位の同調した変化 oscillations に関係する(4R)。

: 幻覚剤 5-MeO-DMT をラットに投与したときに,mPFC で firing rate が上がる。

: しかし,mPFC の low frequency oscillation と BOLD は下がる。

> サルの visual area V1 では,negative な BOLD の変化は LFP, MUA の低下と相関している(5R)。

> ネコの primary visual cortex では,BOLD は spiking activity よりも LFP と相関する(7R)。

 

 

タイムコース

一般的には,刺激後の BOLD シグナルは以下のような変化を示す。


> 刺激からおよそ 2 秒後に BOLD シグナルが増加する(8)。通常,増分は数%である。

: シグナルは 6 - 12 s でプラトーに達し,ベースラインに戻る。アンダーシュートも頻繁に観測される。



グルコースがBOLDに及ぼす影響

> Glucose ingestion(経口摂取)の約20分後に,視床下部 hypothalamus で BOLD signal が低下する(1)。

: 通常ラットより肥満ラットの方が低下が大きい。

: コントロールとして行った water ingestion では,BOLD signal の低下はみられない。

: この変化は血糖値が上がるよりも前に起こるので,腸から視床下部に直接情報が行っていると思われる。

: 視床の VMH areaがグルコース代謝に大切であるという報告がある。


BOLD理論が適用できない場合

毛細血管

活性化される部位(賦活焦点)の下流の流出静脈ではBOLD理論が適用される(すなわち賦活後にMR信号が増大する)。しかし,賦活焦点となる毛細血管領域では,MR信号源である水の拡散運動による影響のため,MR信号とデオキシヘモグロビンの関係がBOLD理論に従わない場合がある(2)。

> 毛細血管では,水分子の拡散によって周囲の磁場が平坦になり,R2*が低下,MRI信号が増大する(2)。

: シミュレーションによって,全Hb量が著しく増加する場合にこれが起こることがわかった。

: 実際に,毛細血管では全ヘモグロビン量の急な増加は起こりうる。

 

 

BOLDの変化が神経活動に先行するケース

> サルに周期的な視覚刺激を与えると,視覚野の血流増大が刺激に先立って起こるという報告がある(3)。


References

  1. Min et al. 2007a. Functional magnetic resonance imaging and immunohistochemical study of hypothalamic function following oral glucose ingestion in rats. Chin Med J 120, 1232-1235.
  2. 山本 2007a (Review). デオキシヘモグロビンとfMRI信号の多様な関係. J Jpn Coll Angiol 47, 5-10.
  3. Sirotin and Das 2009a. Anticipatory haemodynamic signals in sensory cortex not predicted by local neuronal activity. Nature 457, 475-479.
  4. Riga et al. 2014a. The natural hallucinogen 5-MeO-DMT, component of Ayahuasca, disrupts cortical function in rats: reversal by antipsychotic drugs.  Int J Neuropsychopharmacol 16, 889-90.
  5. Shmual et al. 2006a. Negative functional MRI response correlates with decreases in neuronal activity in monkey visual area V1. Nat Neurosci 9, 569-577.
  6. Ogawa et al. 1990a. Brain magnetic resonance imaging with contrast dependent on blood oxygenation. PNAS 87, 9868-9872.
  7. Viswanathan & Freeman 2007a. Neurometabolic coupling in cerebral cortex reflects synaptic more than spiking activity. Nat Neurosci 10, 1308-1312.
  8. Logothetis 2003a (Review). The underpinnings of the BOLD functional magnetic resonance imaging signal. J Neurosci 23, 3963-3971.
  9. Ogawa & Lee 1990c. Magnetic resonance imaging of blood vessels at high fields: in vivo and in vitro measurements and image simulation. Magn Reson Med 16, 9-18.
  10. Ogawa et al. 1990b. Oxygenation-sensitive contrasts in magnetic resonance image of rodent brain at a high magnetic fields. Magn Reson Med 14, 68-78.