2-21-2015 updated
拡散テンソル画像 DTI とは,組織(主に脳 brain)の解剖学的な integrity を調べる方法である(2I)。MRI の特殊なパルスシークエンスを使って撮影する。脳梗塞・脱随性および萎縮性疾患,脳腫瘍などに応用した報告がみられる。
論文でみる定義
DTI からは,以下の3つの値を得ることができる(4I)。FA が指標として最もよく使われている。
DTI 結果の一例(5)。左の値を位置座標に対応して計算できるので,上の図のように脳の図にヒートマップとして表しても良いし,下の図(6)のように,領域ごとに棒グラフで表してもよい。
Fractional anisotropy (FA) は,DTI で調べた水分子が拡散する方向性の自由度を定量的に示した指標であり(3I),以下のような組織学的変化によって変化する。
Anisotropy は 「異方性(等方性の対義語)」 なので,FA が高いほど水分子の動きが限定されている ことになる。つまり,軸索や圧縮された組織では FA の増大が認められる。水が完全に対照に拡散できるとき FA は 0 であり,また FA の最大値は 1 と定義されている(10I)。
白質 white matter tract では,水分子は軸索の方向には動きやすいが,その他の方向には動きにくい。したがって FA は原則として灰白質 gray matter よりも高くなる。
多くの神経変性疾患で,症状と相関して white matter FA が低下する ことが報告されている(10I)。ただし,FA の変化を解釈するにあたっては,以下のような点に注意する必要がある。
> 老化に伴って,white matter FA が低下することが知られている(3I)。
: ミエリン化された線維の数も老化に伴って低下する。白質の変化は,しばしば灰白質より顕著。
: 統合失調症の患者では,老化に伴う FA の低下が健常者よりも著しい。
白質での変化に対して,灰白質における FA の変化が意味するところは複雑である。灰白質の構造が複雑であるほど,FA
は低下する傾向がある ようである。つまり,未発達な灰白質で FA が高くなる。
> Immature cortex では等方性が低い。つまり FA は高い(10I)。 加齢に伴い FA は徐々に低下する。
: 水分子は神経細胞 neuron,グリア細胞 glial cell など多くの構造の中に閉じ込められている。
: Immature な状態では,これらが発生過程で生じた形で規則正しく並んでいる。
: 脳が発達するに従い,axon や dendrite が密に張り巡らされていき,FA が低下する。
> 慢性の硬膜化血腫で,灰白質の圧縮されている部位で FA が高いという報告がある(4R)。
: 尾状核 caudate nucleus の FA は,頭蓋内の圧力と相関する。潰されているためと思われる。
: 手術で血腫を取り除くと,FA も低下する。Putamen, thalamus でも同じ傾向。
: 白質である corpus callosum, internal capsule では,手術しても FA は低下しなかった。
> 鉄の濃度と相関がみられるという報告がある(9D)。
> Bilateral enucleation(視覚の除去)はフェレットの白質 FA を低下させるが,visual cortex FA は増大する(10R)。
: Visual corpus callosum は,イレギュラーに広がったパターンを示す。
: Postnatal day 31 では visual FA が高い。Axonal/dendritic arbors の構造が単純であることを反映している。
: ゴルジ染色で,繊維の方向性が揃っていることが示されている。
Ref 10 (Bock et al.) より。
上の図は FA の比較。BEP7 (bilateral enucleation at postnatal day 7) が眼を除去されたフェレットの脳で,全体的に FA が高い。
右の図は両者のゴルジ染色。BEP7 では神経がより規則的に走っている様子が分かる。
ここでは図のみを示しているが,論文では定量解析もちゃんと行われている。