拡散テンソル画像, DTI, diffusion tensor imaging

2-21-2015 updated

  1. 概要
  2. Fractional anisotropy (FA)



概要: DTI とは


拡散テンソル画像 DTI とは,組織(主に脳 brain)の解剖学的な integrity を調べる方法である(2I)。MRI の特殊なパルスシークエンスを使って撮影する。脳梗塞・脱随性および萎縮性疾患,脳腫瘍などに応用した報告がみられる。

 

  • MPG(motion probing gradient)の方向を変えた複数の拡散強調画像 DWI をもとに,テンソル解析を用いてMPGの方向に依存しない,すなわち測定系の座標に依存しない指標に変換し,そのうち拡散の異方性(diffusion anisotrophy)を表したもの(1)。
  • 水分子が全く自由な状態なら,水分子は3次元の全ての方向に同程度にブラウン運動をする。水分子が細い線維の中にあったりすると,ブラウン運動の方向は限定される。これが拡散の異方性である。

 

論文でみる定義

  • DTI is a new technique that uses the microscopic motion of water molecules to probe tissue 3D microstructures (7I).

 

DTI からは,以下の3つの値を得ることができる(4I)。FA が指標として最もよく使われている。

 

  • Principal diffusivities
  • Mean diffusivity
  • Fractional anisotropy (FA)

 

DTI 結果の一例(5)。左の値を位置座標に対応して計算できるので,上の図のように脳の図にヒートマップとして表しても良いし,下の図(6)のように,領域ごとに棒グラフで表してもよい。

 


 

磁場の強さなどに左右される MRI と違い,DTI は定量的なイメージング手法である。



Fractional anisotropy (FA)


Fractional anisotropy (FA) は,DTI で調べた水分子が拡散する方向性の自由度を定量的に示した指標であり(3I),以下のような組織学的変化によって変化する。

 

  • 軸索,ミエリン鞘の統合性 (integrity of axonal membrane and myelin sheath; 2I)
  • Local coherence of myelinated axons (2I)
  • 組織の圧縮 tissue compression; 腫瘍などによって潰されている部分など (4R)

 

Anisotropy は 「異方性(等方性の対義語)」 なので,FA が高いほど水分子の動きが限定されている ことになる。つまり,軸索や圧縮された組織では FA の増大が認められる。水が完全に対照に拡散できるとき FA は 0 であり,また FA の最大値は 1 と定義されている(10I)。


 

白質での FA 変化


白質 white matter tract では,水分子は軸索の方向には動きやすいが,その他の方向には動きにくい。したがって FA は原則として灰白質 gray matter よりも高くなる。


多くの神経変性疾患で,症状と相関して white matter FA が低下する ことが報告されている(10I)。ただし,FA の変化を解釈するにあたっては,以下のような点に注意する必要がある。

 

  • FA は軸索の数,ミエリン化の程度など多くの要因で変化する。したがって FA のみで何が起こっているかを特定することはできず,組織学的実験などと合わせて考えなければならない。
  • DTI は繊維の方向(求心性 afferent, 遠心性 efferent)を調べることができない。そのため connection の方向性はわからない。

> 老化に伴って,white matter FA が低下することが知られている(3I)。

: ミエリン化された線維の数も老化に伴って低下する。白質の変化は,しばしば灰白質より顕著。

: 統合失調症の患者では,老化に伴う FA の低下が健常者よりも著しい。

 

 


灰白質での FA 変化

白質での変化に対して,灰白質における FA の変化が意味するところは複雑である。灰白質の構造が複雑であるほど,FA は低下する傾向がある ようである。つまり,未発達な灰白質で FA が高くなる。


> Immature cortex では等方性が低い。つまり FA は高い(10I)。 加齢に伴い FA は徐々に低下する

: 水分子は神経細胞 neuron,グリア細胞 glial cell など多くの構造の中に閉じ込められている。

: Immature な状態では,これらが発生過程で生じた形で規則正しく並んでいる。

: 脳が発達するに従い,axon や dendrite が密に張り巡らされていき,FA が低下する。



> 慢性の硬膜化血腫で,灰白質の圧縮されている部位で FA が高いという報告がある(4R)。

: 尾状核 caudate nucleus の FA は,頭蓋内の圧力と相関する。潰されているためと思われる。

: 手術で血腫を取り除くと,FA も低下する。Putamen, thalamus でも同じ傾向。

: 白質である corpus callosum, internal capsule では,手術しても FA は低下しなかった。

 

> 鉄の濃度と相関がみられるという報告がある(9D)。

> Bilateral enucleation(視覚の除去)はフェレットの白質 FA を低下させるが,visual cortex FA は増大する(10R)。

: Visual corpus callosum は,イレギュラーに広がったパターンを示す。

: Postnatal day 31 では visual FA が高い。Axonal/dendritic arbors の構造が単純であることを反映している。

: ゴルジ染色で,繊維の方向性が揃っていることが示されている。

 

Ref 10 (Bock et al.) より。

上の図は FA の比較。BEP7 (bilateral enucleation at postnatal day 7) が眼を除去されたフェレットの脳で,全体的に FA が高い。


右の図は両者のゴルジ染色。BEP7 では神経がより規則的に走っている様子が分かる。


ここでは図のみを示しているが,論文では定量解析もちゃんと行われている。



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References

  1. 今西ほか2009a (Book). 心から納得・理解できるMRI原理とMRS. 医療科学社.
  2. Ćurčić-Blake et al. 2013a. Not on speaking terms: hallucinations and structural network disconnectivity in schizophrenia. Brain Struct Funct, published online.
  3. Mori et al. 2007a. Progressive changes of white matter integrity in schizophrenia revealed by diffusion tensor imaging. Psychiatory Res 154, 133-145.
  4. Osuka et al. 2012a. Elevated diffusion anitotropy in gray matter and the degree of brain compression. J Neurosurg 117, 363-371.
  5. Bouix et al. 2013a. Increased gray matter diffusion anisotropy in patients with persistent post-concussive symptoms following mild traumatic brain injury. PLoS One 8, e66205.
  6. Zhang et al. 2013a. MRI markers for mild cognitive impairment: comparisons between white matter integrity and gray matter volume measurements. PLoS One 8, e66367.
  7. Zhang et al. 2007a. Unique patterns of diffusion directionality in rat brain tumors revealed by high-resolution diffusion tensor MRI. Magn Reson Med 58, 454-462.
  8. Cookey et al. 2014a. White matter changes in early phase schizophrenia and cannabis use: an update and systematic review of diffusion tensor imaging studies. Schizophrenia Res 156, 137-142.
  9. Rulseh et al. 2013a. Chasing shadows: what determines DTI metrics in gray matter regions? An in vitro and in vivo study. J Magn Reson Imaging 38, 1103-1110.
  10. Bock et al. 2010a. Diffusion tensor imaging detects early cerebral cortex abnormalities in neuronal architecture induced by bilateral neonatal enucleation: an experimental model in the ferret. Front Neurosci 4, 149.