磁場の中にある 2 つの核スピン間の相互作用で,結合性電子の影響によるものを J-coupling という。プロトンNMR では,以下の関係にある水素原子のシグナルの分裂として観察される。
1. ビシナル vicinal
隣り合う炭素に結合しているプロトン。vicinal は「近所の,近接の」という意味である。-CH-CH-
2. ジェミナル geminal
同じ炭素に結合しているプロトン。一つの原子に同種原子が2つ結合した状態を geminal という。-CH2-
右図は酢酸エチルの H-NMR スペクトルである(2)。
プロトンに由来するピークが3つあり,右と左の2つが J-coupling によってそれぞれ4本と3本に分裂している。
構造式
H3C-COO-CH2CH3
においてこれらの帰属を行ってみる。
H-NMR では,分裂で生じるピークの数はビシナル水素の数 + 1 になるという規則がある(n + 1 ルール)。
また,J-coupling しているプロトン同士では,その分裂幅(ピーク間の距離,単位はHz)が同じになる(1)。 この分裂幅のことをJ-coupling 値という。