ヘマトキシリン・エオシン染色(HE 染色)は,基本的な組織染色法の一つで,光学顕微鏡レベルで組織の全体像を把握することを目的とする(1)。 ヘマトキシリン,エオシンという 2 種類の染色液を使う。 なお英語での発音は hematoxylin [hiːməˈtɒksɪlɪn], eosin [íːəsin] である。イギリス英語では haematoxylin, eosin と綴る。
ヘマトキシリン(右図上, 2)は負に荷電した色素で,それ自体は染色性をもたない。
酸化されて生じた ヘマテイン hematein(右図下, 3)が媒染剤の金属部分と錯体を形成して正に荷電する。その結果,負に荷電している DNA やリボソームが染色されることになる。色は青藍色から淡青色である。
なお,実際に荷電しているのはヘマテイン-金属錯体の金属部分である。この錯体を生じさせるために,HE 染色液はカリウムミョウバンや硫酸アルミニウムを含んでいる(1)。
Hematein-Al3+ 錯体が実際の染色効果を発揮していることが示唆されているが,錯体の構造は実はまだ分かっていないようである。
核,石灰部,軟骨組織,細菌,粘液などがよく染色される。
エオシン eosin は,蛍光色素 フルオレセイン fluorescein に臭素 Br が結合した構造をもつ色素である。 Eosin Y (右図上,4)と Eosin B (右図下,5)の 2 種がよく用いられている。
ヘマトキシリンとは異なり,負に荷電している(1)。そのため,正電荷をもつ細胞質,間質,各種繊維,赤血球,角化細胞などが染色される。色は赤~濃赤色である。
pH が低下すると,過剰なプロトンのために組織はより強く正に荷電し,エオシンの負電荷と強く結合するようになる。溶液に少量の酢酸を加えて染色性を上げることができるが,pH を下げすぎると沈殿を生じ,染色性は低下する(1)。
ヒト乳がん組織の HE 染色(6)。