グリセロール glycerol は,右の構造式で表される 3 価のアルコールである。 IUPAC 名は 1,2,3-プロパントリオール (1,2,3-propanetriol) である。グリセリン glycerin と呼ばれることもある。
物理化学的性状は以下の通り(5)。
グリセロールの生化学的意義には,以下のようなものがある。
> グリセロールは,解糖がその後の呼吸に比べてオーバーフローしているときに合成される(3)。
> グリセロールは,解糖系から酸化的リン酸化へ metabolic shift を引き起こし,寿命を延ばす(1)。
> ラット rat の脂肪組織,筋肉,肝臓では,グルコースはグリセロールの主要な原料ではない(4R)。
: 乳酸 lactate,ピルビン酸 pyruvate などからのグリセロール合成 glyceroneogenesis が多い。
グリセロールの生合成経路には,以下のものがある。グリセロール-3-リン酸 G-3-P の生合成と極めて密接に関わっており,厳密には区別されていない場合もあるので注意すること。
酵母では,グリセロールは下の図(3)のように解糖 glycolysis の中間体ジヒドロキシアセトンリン酸 DHAP からグリセロール-3-リン酸を経て合成される。
また,トリアシルグリセロール TAG からリパーゼの作用により脂肪酸が除去されて生成する。
ラット rat の脂肪組織,筋肉,肝臓で TAG が合成される際には,グルコースはグリセロールの主要な原料ではなく,乳酸などを原料とする glyceroneogenesis が 大部分を占めることを示した論文がある(4R, 図と表を転載)。48 時間飢餓および通常条件下でそうであるほか,スクロース食でさらにその割合が増える。
グリセロールの分解は,解糖系および糖新生と密接に関わっている。脂肪分解で生じたグリセロールは,以下のようにして分解される(6)。
> グリセロールは,タンパク質の凝集を防ぐ分子シャペロン molecular chaperone としても働く(2)。
: ヒトの細胞を 200 – 400 mM グリセロールで処理すると,酸化ストレスから保護される。
: ルシフェラーゼを熱変性させ,その re-folding を調べている。
> 大腸菌培養液にグリセロールを 終濃度 10 - 50% で加えると,長期保存することができるようになる。
: これをグリセロールストックという。詳細は グリセロールストックの作り方 のページへ。
: 保存は -80℃ だと思っていたが,Molecular Cloning によると-20℃ である。
: グリセロールが不凍液として働き,細胞内に氷結晶ができるのを防ぐためと考えられている。
> タンパク質溶液の凍結・融解を避けるためにも使われる。
: 制限酵素 restriction enzyme は,一般にグリセロール溶液として市販されている。