グリセロール(グリセリン) glycerol (glycerin)

5-25-2017 Last update

 

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  1. 概要: グリセロールとは
  2. 生合成
    1. 酵母
    2. ラット
  3. 分解
  4. 分子シャペロンとしての作用

関連項目

関連タンパク質

  • リポタンパク質リパーゼ: LPL
  • ホルモン感受性リパーゼ: HSL


概要: グリセロールとは

グリセロール glycerol は,右の構造式で表される 3 価のアルコールである。 IUPAC 名は 1,2,3-プロパントリオール (1,2,3-propanetriol) である。グリセリン glycerin と呼ばれることもある。

 

物理化学的性状は以下の通り(5)。

  • 無色で粘稠,甘味のある吸湿性の液体。融点 17.8 ℃,沸点 154 ℃ (5 Torr)。比重 1.2644 (15 ℃)。
  • 水,アルコールに可溶。エーテル,クロロホルム,二硫化炭素,石油エーテルなどには不溶。
  • 天然には油脂,リン脂質などの成分として大量に存在する。

グリセロールの生化学的意義には,以下のようなものがある。

 

  • 糖代謝と脂質代謝の接点の一つ。グルコース glucose から作られるグリセロールが,脂肪酸とエステル結合すると中性脂質トリアシルグリセロール TAG になる。逆に,TAG が分解されると脂肪酸とグリセロールが生じる。

 

> グリセロールは,解糖がその後の呼吸に比べてオーバーフローしているときに合成される(3)。

> グリセロールは,解糖系から酸化的リン酸化へ metabolic shift を引き起こし,寿命を延ばす(1)。

> ラット rat の脂肪組織,筋肉,肝臓では,グルコースはグリセロールの主要な原料ではない(4R)。

: 乳酸 lactate,ピルビン酸 pyruvate などからのグリセロール合成 glyceroneogenesis が多い。


生合成

グリセロールの生合成経路には,以下のものがある。グリセロール-3-リン酸 G-3-P の生合成と極めて密接に関わっており,厳密には区別されていない場合もあるので注意すること。

 

  • グルコースからの合成: 解糖 glycolysis の中間体,ジヒドロキシアセトンリン酸 DHAP から,グリセロール-3-リン酸を経て合成される(4I)。
  • Glyceroneogenesis: グルコースおよびグリセロール以外の物質から G3P を合成し,グリセロールを作る経路を glyceroneogenesis という(4I)。乳酸 lactate,ピルビン酸 pyruvate,アラニン Ala, TCA回路の中間体などが原料になる。
  • 脂肪分解 lipolysis: トリアシルグリセロール TAG から脂肪酸が切り離され,DAG, MAG を経てグリセロールが生じる。

酵母

酵母では,グリセロールは下の図(3)のように解糖 glycolysis の中間体ジヒドロキシアセトンリン酸 DHAP からグリセロール-3-リン酸を経て合成される。

 

また,トリアシルグリセロール TAG からリパーゼの作用により脂肪酸が除去されて生成する。


ラット

ラット rat の脂肪組織,筋肉,肝臓で TAG が合成される際には,グルコースはグリセロールの主要な原料ではなく,乳酸などを原料とする glyceroneogenesis が 大部分を占めることを示した論文がある(4R, 図と表を転載)。48 時間飢餓および通常条件下でそうであるほか,スクロース食でさらにその割合が増える。

  • 下の図で,ジヒドロキシアセトンリン酸 DHAP は解糖系の中間体である。ここから右の方向への反応(PEP まで)が解糖系の一部で,そこから先はオキサロ酢酸 oxaloacetate を経て TCA 回路に入る補充反応 anaplerosis の経路が描かれている。
  • DHAP は,グリセロール-3-リン酸と構造が似ていることがわかる。反応に NADH が使われることも重要である。

 



分解

グリセロールの分解は,解糖系および糖新生と密接に関わっている。脂肪分解で生じたグリセロールは,以下のようにして分解される(6)。

  1. グリセロールキナ−ぜ glycerol kinase と ATP にリン酸化されて,glycerol-3-phosphate となる。
  2. Glycerol phosphate dehydrogenase と NAD+ に酸化されて,ジヒドロキシアセトンリン酸 DHAP になる。これは解糖系の中間体である。
  3. DHAP は glyceraldehyde-3-phosphate (G3P) に isomerization される。解糖系,糖新生のどちらにも乗ることができる。

 

 


分子シャペロンとしての作用など

> グリセロールは,タンパク質の凝集を防ぐ分子シャペロン molecular chaperone としても働く(2)。

: ヒトの細胞を 200 – 400 mM グリセロールで処理すると,酸化ストレスから保護される。

: ルシフェラーゼを熱変性させ,その re-folding を調べている。

 

> 大腸菌培養液にグリセロールを 終濃度 10 - 50% で加えると,長期保存することができるようになる。

: これをグリセロールストックという。詳細は グリセロールストックの作り方 のページへ。

: 保存は -80℃ だと思っていたが,Molecular Cloning によると-20℃ である。

: グリセロールが不凍液として働き,細胞内に氷結晶ができるのを防ぐためと考えられている。

 

> タンパク質溶液の凍結・融解を避けるためにも使われる。

: 制限酵素 restriction enzyme は,一般にグリセロール溶液として市販されている。


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References

  1. Ingram & Roth, 2011a. Glycolytic inhibition as a strategy for developing calorie restriction
    mimetics. Exp Gerontol 46, 148–154.
  2. Deocaris et al. 2008a. Glycerol stimulates innate chaperoning, proteasomal and stress-resistance functions: implications for geronto-manipulation. Biogerontology 9, 269–282.
  3. Wei et al. 2009a. Tor1/Sch9-regulated carbon source substitution is as effective as calorie restriction in life span extension. PLoS Genet 5, e1000467.
  4. Nye et al. 2008a. Glyceroneogenesis is the dominant pathway for triglyceride glycerol synthesis in vivo in the rat. J Biol Chem 283, 27565–27574.
  5. 岩波 理化学辞典 第5版: 使っているのは 4 版ですが 5 版を紹介しています。
  6. Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。