カテコールアミン catecholamine の一種で,名称は前駆体のドーパ DihydrOxyPhenylAlanine に由来する。Phe, Tyr からドーパが合成され,デカルボシキラーゼによってドーパミンになる。医療分野ではドパミンと表記するが,このサイトではドーパミンを用いる。
ドーパミンは記憶・情動に大きな役割を果たし,快感や多幸感を与える作用 がある(1)。かつては自発運動 locomotor activity と報酬 reward に重要であるとされたが,近年では 報酬への期待 との関係が重要視されている(8I)。
"prediction of reward with the motivation to procure the reward and with the facilitation of conditioned learning"
ドーパミンの構造(15)
ドーパミン作動性ニューロンは,報酬系 reward system だけでなく,生存に必要な努力(食事など)を継続的に行う活動も支配している(2)。
神経 neuron での作用がよく研究されており,肥満 obesity,過食,アルコール中毒,麻薬中毒,統合失調症 schizophrenia,パーキンソン病などとの関係も知られている。
ドーパミン(DA)分泌には,以下の2つのモードがある。
「ドーパミンは神経伝達物質であるが,グルタミン酸 Glu などのように早いシナプス伝達を行うわけではない。むしろドーパミン受容体を介した遅い情報伝達を行い,シグナル伝達を引き起こす。」 という文献 4 の表現は,2 の chronic な作用を述べている。この作用のため,ドーパミンは neurotransmitter ではなく neuromodulator と表現されることもある。
ドーパミンの作用は,結合する受容体によって異なるのが特徴である。つまり,投射先の領域で受容体が発現しているパターンによって,ドーパミンが分泌された際に神経が活性化される場合と抑制される場合がある。
ドーパミン神経は,このページの下で示すように 4 つの主要な経路をもっており,それぞれについて活性化・抑制が調べられているが,まだ十分な研究がなされていない状態である。
> ドーパミン受容体2(D2R)に結合すると,活動電位を抑制する(9I)。
: K+ channel を活性化し,神経細胞の過分極を引き起こすため。
: そのため,D2R antagonist の投与直後は,神経は活性化する(firing rate, burst firing)。
: 逆に,D2R agonist を投与すると神経活動は抑制される。
: しかし,antagonist 21日間などの長期投与すると,ドーパミン作動性ニューロンは抑制される。
: これは脱分極ブロック depolarization block という現象と考えられている。
神経伝達物質としてドーパミンを放出するニューロンを dopaminergic neuron といい,以下のような特徴をもっている。
その他のニューロンのタイプ
ヒトの脳では,
1. 黒質 substantia nigra
2. 腹側被蓋野 VTA
がドーパミンの主な供給源である。 2 はふくそくひがいやと読み,ventro-tegmental area, VTA と表記される。
つまり,これら場所に,他の領域に投射しているドーパミン作動性ニューロンが集中して存在する。
ドーパミン作動性神経の場所(12)
Substantial nigra および VTA からのドーパミン神経の投射は,主に以下の 4 つの経路に分けられる(4)。Substantial nigra からは striatum への限定的な投射があり,VTA からは nucleas accumbens (NAc),海馬 hippocampus および PFC の様々な部位に比較的広い投射がある。
ハイフン を入れない方が一般的な表現であるが,意味の由来をわかりやすくするために,このサイトではハイフン入りで表記している。
Nigro-striatal pathway:
Meso-limbic pathway:
Meso-cortical pathway:
Tuberoinfundibular pathway:
黒質および VTA の dorpaminergic neuron は以下の場所から投射を受けている(2)。関連すると思われる機能とともに示す。
1. チロシンから L-DOPA へ
ドーパミンは,もとを辿るとアミノ酸のチロシン tyrosine から合成される。
チロシンヒドロキシラーゼ(tyrosihe hydroxolase, TH)に触媒されるこの反応が,ドーパミン生合成の律速段階となる(4)。
2. L-DOPA から ドーパミンへ
AADC (aromatic L-amino acid decarboxylase) によってドーパミンが合成される。
From wikipedia (13)
シナプス間隙に放出されたドーパミンの代謝には,COMT (catechol-O-methyltransferase) と DAT (dopamine transporter) が関与している(7)。COMT はドーパミンの分解を,DAT は細胞内への取り込みを担う。
> おいしい食事をとると,ドーパミンが線条体 striatum に放出される。その量は満足度と相関する(5)。
: このドーパミンは,報酬系 reward circuitry を活性化する。
: この刺激が繰り返されると,次第に臭いなどの食事に関連した刺激を強く受け取るようになる(習慣化)。
> 食事に対する期待でも,ドーパミンが nucleus accumbens に放出される(8I)。
> Glutamatergic neuronからも,dopaminergic neuron にたくさん信号が入る(5)。
> この経路のドーパミンの活性が低いことが,様々な肥満モデルで明らかにされている(8I)。
> 肥満のヒトおよびげっ歯類では,線条体 striatum の D2 受容体の発現量が低い(6I)。
> 心筋梗塞などによる虚血 ischemia は脳を損傷させるが,回復過程でドーパミン系が活性化する(3I)。