岩波 理化学辞典 第5版 の定義は以下の通りである。
酵素 enzyme が複合タンパク質であって,その補欠分子族がタンパク質部分から多少とも可逆的に解離して存在するとき,この非タンパク質部分を補酵素 coenzyme という。
補欠分子族 prosthetic group という言葉も難しいので,これの定義も調べてみる。補欠分子族とは「酵素タンパク質の活性中心に結合する非タンパク質性の基で,酵素が触媒する化学反応に直接関与し酸化還元を受けたりする部分をいう」とある(2)。また「補酵素が酵素タンパクと固く結合して解離しにくいものと考えることができる」とある。
以上のことから,酵素に結合して触媒反応を補助するもので,
と考えて良さそうである。ただし,解離しやすい・しにくいという違いに明確な定義はないので,これらの区別は場合によっては曖昧である。
英語の定義も Oxford Dictionary of Biology で調べてみよう(3)。
An organic nonprotein molecule that associates with an enzyme molecule in catalysing biochemical reactions. Coenzymes usually participate in the substrate-enzyme interaction by donating or accepting certain chemical groups. Many vitamins are precursors of coenzymes.
とあり,ここでは解離に対する言及はない。一方,補酵素が酵素反応を補助するメカニズムに触れており,多くの場合官能基を提供することで酵素反応を補助すると書かれている(参考: 官能基の一覧)。
補酵素の多くは,ビタミン vitamin B から生合成される。主要なものを表にまとめた(1)。
補酵素 | ビタミン | 関与する反応など |
Thiamine pyrophosphate | Thiamine (B1) |
アルデヒド基の転移,脱炭酸。Thiamine pyrophosphate (TPP) は thiamine diphosphate (ThDP) とも呼ばれる。
酵素: PDH, PDC, ALS, |
FAD | Riboflavin (B2) | 酸化・還元反応 |
NAD | ナイアシン | 酸化・還元反応 |
補酵素 A | Pantothenic acid | アシル基の転移 |
Pyridoxal phosphate | Pyridoxine (B6) | アミノ酸 amino acids 間の官能基の転移 |
Biocytin | Biotin | ATP-dependent carboxylation, carboxyl-group transfer |
Tetrahydrofolate | 葉酸 folic acid | チミン合成など |
5'-deoxyadenosyl cobalamin | B12 | メチル基の転移 |