ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド NAD(窒素原子が正電荷をもっているため NAD+ とも表記されるが,両者は同じものである)は,多くの酸化還元反応に関わる補酵素の一種である(4)。
下の図(3)のように,窒素環の部分で 1 個の水素原子と 2 個の e- を受け取る ことができる。したがって,水素原子をある分子から引き抜くような反応で補酵素となる。格言集 にある通り 「水素原子を受け取ったら還元」なので,これは「ある分子の酸化反応」であり,この反応を通じて NAD+ は NADH に還元されることになる。NAD+ は酸化型,NADH は還元型と呼ばれる。
NAD+ の関わる基本的反応は,
R-CH(OH)-R + NAD+ -> R-(C=O)-R + NADH + H+
である。2 つのプロトンが基質から失われ,一つは NAD+ に移行して NADH となる。この際,2 個の電子も NADH に移る。1 つのプロトンは H+ として周辺に放出される(5)。
R の部分の構造を示すと,右の図(2)のようになる。
下のニコチンアミドに,2 つの核酸(ヌクレオチド)が結合した構造をもつ。
> 解糖系では,1 分子のグルコースから 2 分子の NADH が生じる。
> ピルビン酸を乳酸にする反応は,ピルビン酸 1 分子あたり 1 分子の NADH を消費する。
: グルコースからは 2 分子のピルビン酸が生じるので,これはグルコース 1 分子あたり 2 分子に相当。
: つまり,グルコースが全て乳酸になるような理想的な嫌気条件下では,NADH は生じないことになる。
解糖系で NADH が生じる反応は,「6. GAPのリン酸化」である。
解糖の過程でグルコースはアルドラーゼの作用でグリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)およびジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)2 つに開裂し,DHAP は GAP に異性化される。つまり,1 分子のグルコースから 2 分子の GAP が生じる。NADH は,GAP によって NAD が還元されることで生じるため,1 分子のグルコースから 2 分子作られることになる。
TCA 回路 では,1 分子のアセチル CoA で 3 分子の NAD+ が NADH に還元される。詳細は TCA 回路のページを参照のこと。
NADH は呼吸鎖 respiratory chain に輸送され,水素原子は最終的に NADH から酸素に受け渡されて ATP と水を生じる。NAD+ は TCA 回路で再利用される。
> 刺激後に神経で NADH が急減し,その直後に astrocyte で急増する。後者は嫌気的解糖による(1R)。