7-23-2014 updated
乳酸には光学異性体の L-乳酸と D-乳酸 がある。真核生物で主に代謝に利用されるのは L-乳酸であるが,糖尿病 diabetes などでD-乳酸が増えるという報告もあり(1I),D-乳酸の代謝も重要である。
また,バクテリアは D-乳酸も細胞壁の構成成分などとして積極的に利用しており,L- , D-乳酸を変換する乳酸ラセマーゼ lactate racemase もバクテリアに広く分布している。
D-乳酸は,トランスポーターである monocarboxylate transporter (MCT), とくに MCT1 との結合に際して L-乳酸およびピルビン酸 pyruvate と競合する(1I)。
これは細胞への取り込み,細胞内の輸送の両方のレベルで起こる(1I)。
> D-乳酸は,ラットの脳と心臓 but not 肝臓でミトコンドリアによるエネルギー産生を阻害する(1R)。
: In vivo ではなく,それぞれの臓器から単離したミトコンドリアで実験を行っている。
: 下痢,短腸症候群 short bowel syndrome, 糖尿病などで血中D-乳酸量が増加する。
: 過剰量のD-乳酸はアシドーシスをもたらすが,低濃度ではおそらくピルビン酸代謝を阻害する。
: 低濃度での阻害の原因の少なくとも一部は,ミトコンドリアへの輸送の際のMCTの競合である。
> D-乳酸は,D-乳酸デヒドロゲナーゼ(DDH, LDHの一種)によりFADを補酵素として代謝される(1I)。
: DDH の量は組織ごとに異なり,脳 brain および心臓 heart では低い。
: したがって,心臓,脳の乳酸代謝はD-乳酸の存在に大きな影響を受ける。
: 肝臓では DDH 活性が高いので,むしろ D-乳酸をエネルギーに使うことができる。