核酸 nucleic acid とは,リン酸,ペントースおよび塩基からなる ヌクレオチド nucleotide が重合したポリヌクレオチド のこと。構造的にも機能的にも,DNA と RNA に大別される(1)。
用語がややこしいので,最初に整理しておく。核酸の構成要素はリン酸,ペントース(糖)および塩基であるが,
ヌクレオシド nucleoside = ペントース + 塩基
ヌクレオチド nucleotide = ペントース + 塩基 + 1 個以上のリン酸
核酸 = ポリヌクレオチド
という関係になる。いわゆる A, T, G, C, U にもこれらに対応した名前がつけられている。塩基だけの場合,糖と結合してヌクレオシドになった場合,さらにリン酸基と結合してヌクレオチドになった場合で名前が変わってくるので注意する。
塩基: adenine (A), guanine (G), cytosine (C), uracil (U), thymine (T)
RNA を構成するヌクレオシド: adenosine (A), guanosine (G), cytidine (C), uridine (U)
DNA を構成するヌクレオシド: deoxyadenosine (A), deoxyguanosine (G), deoxycytidine (C), thymidine (T)
DNA を構成するヌクレオチド: deoxyadenylate (A), deoxyguanylate (G), deoxycytidylate (C), thymidylate (T)
である。
ヌクレオチドは,リン酸基がついているので *** phosphate と表す場合もある(参考: 有機化合物命名法)。有名なものは adenosine 5'-triphosphate (ATP) や adenosine 5'-diphosphate (ADP) である。
例えば,デオキシリボ核酸 DNA の構造は右の図(2)のようになっており,P と O から成る部分がリン酸,五角形の部分がペントース,CGAT の部分が塩基である。
リボースには,以下の図(3)のように炭素番号がつけられている。O の右側にある炭素が 1 番で,そこから時計回りに 2 - 5 番である。
リボ核酸 RNA では,2 位の炭素に水酸基 -OH が結合しているが,DNA は「デオキシ(酸素がないという意味)」なので,これが水素原子に置換されている。
参考: 官能基の一覧
リボースの炭素番号を使うと,DNA および RNA は「リボース + 塩基のユニットが,5 位および 3 位の炭素に結合したリン酸基を介して繋がったもの」と表現できる。また,DNA および RNA の鎖には方向性があることもわかる。
鎖の方向を示すときは「5' 側」「3' 側」のように表現する。DNA の構造の図では,上方が 5' 側,下方が 3' 側となり,この DNA 鎖の塩基配列は 5'-CGAT-3' である。数字を含めずに CGAT と書く場合も,5' - 3' 方向で数字が省略されていると考える。
DNA の二重らせん構造 double helix(右図, 4)は 1953 年に報告された。
これが生物学上の大発見とされているのは,この構造が半保存的複製 semiconservative replication という DNA の機能をみごとに表現したものだったためである。
重要なポイントは
細かい構造上の特徴は以下(1)。
> DNA の構造は,以下の理由から 化学的に非常に安定 である(6)。
: 比較的反応性の高い塩基は,鎖の内側に水素結合した状態で格納されており,他の物質と反応しにくい。
: さらに,塩基対はリン酸および糖で外側から保護された形になっている。
> DNA の構造は,以下の理由から 物理的に不安定 である。とくに長い DNA は切断されやすい(6)。
: DNA 鎖は水中でランダムコイル構造をとっており,ピペッティングによる水流などで容易に切断される。
: 一般的なゲノム DNA では,150 kb 以上の鎖は通常の DNA 抽出の過程で切断される可能性が高い。
DNA の量は細胞内で比較的一定であるのに対して,RNA の量は転写が活発かどうかによって大きく変動する。一般に,生物がよい栄養状態にあるときは RNA 量が増大する傾向にある。そのため,RNA:DNA 比は栄養状態もしくは成長率の指標として使われることがある(5)。