ピルビン酸 Pyruvate

9-30-2017 Last update

 

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  1. 概要: ピルビン酸とは
    • ピルビン酸代謝に関わる酵素
  2. ピルビン酸代謝の概要とそれを調べる実験法
  3. ピルビン酸からのアセチル CoA 生成
  4. ピルビン酸からの乳酸生成
  5. ピルビン酸リサイクリング

関連項目

 

関連する代謝産物



概要: ピルビン酸とは

ピルビン酸は,右のような構造をもつ有機酸である。C, H, O の基本的な組み合わせである CH3, C=O, COOH からできていると覚えよう。英語は pyruvic acid である。

 

これがイオンになったものが pyruvate [pʌɪˈruːveɪt] である。ru にアクセントがあるので注意する。日本語ではあまり区別されず,理化学辞典(6)のピルビン酸の項目にも 「解糖系とトリカルボン酸サイクルを結ぶ重要な中間生成物である」 と書かれている。

 

生理的条件下では陰イオンとして存在するため,pyruvate という言葉の方が生化学分野ではよく使われる。解糖系 glycolysis の最終産物は pyruvate であり,大きく分けて 4 通りの経路で代謝される(下図)。

 

  1. 好気的条件下では,アセチル CoA としてTCA 回路 に入る。
  2. オキサロ酢酸として TCA 回路 に入る。これは TCA 回路の中間体を補充するための重要な反応で,補充反応 anaplerosis と呼ばれる。
  3. 嫌気的条件下では乳酸 lactate になる(乳酸発酵)。
  4. バクテリアなどでは,脱炭酸を受けてアセトアルデヒドになったあと,エタノール ethanol に変換される。この反応も嫌気的に進む(アルコール発酵)。

ピルビン酸 pyruvic acid (左)とピルビン酸イオン pyruvate (右)。



ピルビン酸代謝に関わる酵素

ピルビン酸およびホスホエノールピルビン酸 PEP の代謝に関わる酵素を整理する。逆反応がある場合とない場合,迂回経路などがあり複雑である。

 

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)

アセチル CoA にして TCA 回路に入れる反応。

 

ピルビン酸カルボキシラーゼ (PC)

オキサロ酢酸 oxaloacetate にして TCA 回路に入れる補充反応 anaplerosis。

 

ピルビン酸デカルボキシラーゼ (PDC)

ピルビン酸からアセトアルデヒドを作る。アルコール発酵では,アセトアルデヒドがさらにアルコールデヒドロゲナーゼ ADH によってエタノール ethanol になる。

 

ピルビン酸キナーゼ(PK)

ホスホエノールピルビン酸 PEP からピルビン酸を合成する反応で,解糖系の最終段階である。名前は「キナーゼ」だが,解糖では逆反応なので注意すること。

 

乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)

嫌気的条件下でピルビン酸を乳酸 lactate にする反応。これも逆反応で名前がついている。

 

 


ピルビン酸からのアセチル CoA 生成

解糖系 glycolysis は細胞質に存在する。これによって生じたピルビン酸 pyruvate はミトコンドリアに輸送され,ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体 pyruvate dehydrogenase complex によって不可逆的に アセチル CoA になる(4I)。

 


ピルビン酸からの乳酸生成

嫌気的条件下では,ピルビン酸は乳酸 lactate に代謝される。生化学の重要な反応の一つである。この反応の意義は,乳酸を作ることではなく NADH から NAD+ を作り出すことにある。 NADは TCA 回路を回すために使われる補酵素である(参考: NADH/NAD のページ)。

 

好気的条件下では,グルコースの 4% 未満しか乳酸にならないと考えられており,この反応のフラックスは小さい(5D)。

 

C=O が CH-OH になる。H の付加反応であり,乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase, LDH, EC 1.1.1.27)に触媒される(1)。

 

黒の数字は,ピルビン酸がグルコース由来であるときの元のグルコースの炭素番号。赤の数字はピルビン酸および乳酸の炭素番号である。


ピルビン酸の概要とそれを調べる実験法

1 - 3 の経路を中心にした図(文献 2 より転載)を示す。

 


Pyruvate flux

安定同位体 13などで標識したピルビン酸を注入し,13がどの物質に移行しているかを調べることができる。さらに,13の位置によってどの代謝経路を通ってその物質に変換されたかがわかることもある。

 

> 赤で示した 1 位に 13C をもつ [1-13C]Pyr をマウスに注射し,肝臓の代謝を 13C NMR で調べた論文(2)。

: 乳酸 lactateAla,Asp,リンゴ酸 malate などに13Cが移行した。

: リンゴ酸に 13C が移行する経路は,PDH-TCA回路 経由と PC 経由の2通りが考えられる。

: 1 位の炭素はピルビン酸がアセチル CoA になるときに外れるので,PC 経由であることがわかる。

  

ピルビン酸は,心臓 heart では脂肪酸に次ぐエネルギー源であり,全消費エネルギーの約 30% を占める(4I)。もちろん,この割合は状況に応じて変わる。


ピルビン酸リサイクリング Pyruvate recycling

TCA回路の中間体から,再びピルビン酸を合成する pyruvate recycling という反応がある(3I)。肝臓,腎臓に存在する。ピルビン酸は,再びアセチルCoAを経てTCA回路に入る(3I)。

  1. リンゴ酸 malate が NADP-linked malic enzyme (EC 1.1.1.40) によって脱炭酸されピルビン酸になる。
  2. オキサロ酢酸 oxaloacetate が PEPCK およびピルビン酸キナーゼの作用によりピルビン酸になる。

局在の問題

ピルビン酸リサイクリングが肝臓および腎臓にあることは良く知られているが,脳 brain にも存在するかどうかは議論がわかれている(3I)。脳にあるとする場合でも,neuron にあるのか,astrocyte にあるのかという問題もある。

> 文献3では,標識したグルコースおよび酢酸の追跡実験から,脳ではなく肝臓が主体であると主張(3R)。

: この経路の significant flux を確認したモデリングはないと書かれている。

: 生理的条件では,脳ではこの経路は動いていないだろうと述べている。生理的意義も不明。


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References

  1. Berg ed. 2006 (Book). Biochemistry, chapter 17. W.H. Freeman and Company, NY. 
  2. Merritt et al. 2011a. Flux through hepatic pyruvate carboxylase and phosphoenolpyruvate carboxykinase detected by hyperpolarized 13C magnetic resonance. PNAS 108, 19084-19089.
  3. Serres et al. 2007a. Brain pyruvate recycling and peripheral metabolism: an NMR analysis ex vivo of acetate and glucose metabolism in rat. J Neurochem 101, 1428-1440.
  4. Schroeder et al. 2008a. In vivo assessment of pyruvate dehydrogenase flux in the heart using hyperpolarized carbon-13 magnetic resonance. PNAS 105, 12051-12056.
  5. Lardon et al. 2005a. 1H-NMR study of the metabolome of an exceptionally anoxia tolerant vertebrate, the crucian carp (Carassius carassius). Metabolomics 9, 311-323.
  6. 岩波理化学辞典 第 4 版.