10-19-2014 updated
ニューロン neuron では,TCA 回路の中間体である α-ケトグルタル酸(α-KG)は,ミトコンドリアに輸送されてグルタミン酸 Glu の生合成に使われる。このとき,ミトコンドリアへの輸送とグルタミン酸への変換は,議論があるにせよ十分に早いとされている(1)。
また,TCA 回路の中間体の濃度は一般に低く,各反応も十分に早いことが分かっている。
したがって,13C で標識したグルコースを注入してから,その 13C をもつグルタミン酸が増えてくる速度は,TCA 回路の速度を示すことになる。これは,グルコースから生じたアセチルCoAが α-KG になる速度とも言える。
Glucose -> Pyruvate -> acetyl CoA -> α-KG <-> Glu -> other products
アセチル CoA が α-ケトグルタル酸に変換される速度が Vtca である(7)。
この仮定のもと,in vivo NMR とモデリングから,脳の TCA サイクルの速度 TCA flux を算出する方法がある。表にいくつか例を示す。なお,この値は使っている麻酔の種類に大きく依存するので注意すること。
単位は mmol/kg tissue weight/min または µmol/g tissue weight/min で表される。どちらも同じ値である。
麻酔 | 文献 | TCA flux (mmol/kg/min) | |
なし awake | 2 |
0.65 ± 0.03 (total)
0.53 ± 0.03 (neuron) 0.13 ± 0.01 (glia) |
Young human brain, midline occpito-parietal lobe (n = 8, 26 ± 7 years) |
なし awake | 2 |
0.54 ± 0.04 (total) 0.38 ± 0.04 (neuron) 0.17 ± 0.01 (glia) |
Eldery human brain, midline occipito-parietal lobe (n = 7, 76 ± 8 years)。上と比較すると,老化で脳のTCA fluxは遅くなるが,それはニューロンの代謝低下によるもので,グリアではむしろ代謝が上がっていることがわかる。 |
なし awake | 8 |
0.80 ± 0.10 (gray matter) 0.17 ± 0.01 (white matter) |
灰白質,白質を別々に測定。n = 8。 |
麻酔 | 文献 | TCA flux (mmol/kg/min) | |
Halothane | 3 |
0.53 ± 0.04 |
約 100 μLの脳領域で測定。cortex, subcortex, hippocampusを含む。POCE, n = 5。 |
Halothane | 4 |
0.79 ± 0.15 (gray matter) 0.20 ± 0.11 (white matter) 0.42 ± 0.09 (subcortex) |
組織ごとに計算。POCE。灰白質 gray matter の代謝活性が最も高いことがわかる。 |
麻酔 | 文献 | TCA flux (mmol/kg/min) | |
Urethane | 5 |
0.21 ± 0.02 (生後10日) 0.56 ± 0.07 (生後30日) |
Glutamatergic neuron,発生段階で比較。脳波のパターンは生後20日ぐらいで成体と同じになる。TCA回路の速度も,生後30日目までには成体と同程度になることがわかる。 |
麻酔 | 文献 | TCA flux (mmol/kg/min) | |
α-Chloralose | 6 |
0.35 ± 0.06 (Motor, R) 0.54 ± 0.10 (Motor, S) 0.49 ± 0.03 (Somato, R) 1.48 ± 0.82 (Somato, S) 0.42 ± 0.11 (Occipital, R) 0.36 ± 0.17 (Occipital, S) |
Forepaw stimulation の有無で部位ごとに計算。Rが刺激なし,Sが刺激あり。刺激によって大きくTCA fluxが増えること,Somatosensory でとくに TCA flux が上がることがわかる。 |
α-Chloralose | 9 |
0.57 ± 0.16 (NH3) 0.46 ± 0.12 (Control)
Gln synthesis rate: 0.43 ± 0.14 (NH3) 0.21 ± 0.04 (Control) |
N=5. アンモニア毒性の影響を調べるため,酢酸アンモニウムを注入して血中NH3を 0.35 mMにしている。Control は0.05 mM。TCA flux は影響を受けないが,グルタミン合成量が増える。これは Glu + NH3 -> Gln の反応により,アンモニアの解毒反応である。 |
麻酔 | 文献 | TCA flux (mmol/kg/min) | |
なし awake | 7 |
1.4 |
麻酔を切って筋弛緩剤 d-tubocurarine-C1 (3 mg/kg body weight) を投与した状態(n = 6)。大脳皮質だが,どの領域かはっきり書かれていない。 |