酸・塩基関係は,この順に読むとわかりやすいです。まずは質量作用の法則と平衡定数のページをおすすめします。
化学反応 aA + bB + ... ⇌ cC + dD + ... が平衡 equilibrium に達したとき,各成分の濃度の比 K
は 温度と圧力だけの関数となる という法則を 質量作用の法則 law of mass reaction という (3)。K は 平衡定数 equilibrium constant と呼ばれる。
解離定数 dissociation constant は平衡定数の一種であり,化学反応が解離 dissociation(可逆的な分解)の場合の名称である。当然,解離定数にも単位は存在しない。
理化学事典 (4) による「解離定数」の定義は以下のとおり。
物質がその成分原子,イオン,原子団などに可逆的に分解する反応をいう。一般に高温ほど分解が進む傾向があり, 加熱による解離を熱解離という。また水溶液中などで電解質がイオンに解離する場合をとくにイオン解離または電離という。解離反応の平衡状態 (解離平衡) に対して質量作用の法則が適用され,その平衡定数をとくに解離定数という。
また解離平衡において解離している分子数の全分子数に対する割合を解離度という。電離に対する解離定数,解離度をそれぞれ電離定数,電離度ということがある.
解離定数の単位は,解離式によって変わってしまうのでしばしば問題となるところである。まだ十分に理解していないが,質量作用の法則と平衡定数 のページで平衡定数の単位について触れているので参照してほしい。解離定数は平衡k定数の一種なので,同じことである。
ざっくり言うと,平衡定数は本来は無次元の数であるが,濃度を使った上の式は実は近似式であり,この場合は単位をもつようになっているとのことである。
この項目は,酸と塩基についての一連のトピックの一部でもあります。体系的に調べたい人は,右のような順番で読むことをお勧めします。
上記の解離反応が,H+ を放出する反応であるとき,その解離定数をとくに Ka という。a はおそらく acid に由来し,OH- を放出する塩基 base に対しては Kb が使われることもある。
Ka 解離定数であるので,その式自体に特別なところはない。しかし,pKa は生理的に大きな意味をもっている値なので,ここで詳しく解説する。
COOH をもつ脂肪酸 fatty acid が解離して,H+ を放出する反応を考えよう。このとき,Ka および pKa は以下のように定義される(5)。
pKa は,要するに [H+] に対する pH と同じである。
「強い酸」とは,解離の程度が高い酸,すなわち同じ濃度でたくさんの H+ を放出できる酸のこと。
解離度が高いということは,分子の値が大きく,分母の値が小さいということである。したがって Ka は大きくなる。pKa にはマイナス符号がついているので,pKa は小さくなる。代表的な酸の pKa を表にしてみる。
例えば炭酸 H2CO3 は,2 段階で H+ を放出する。そのため,それぞれの段階に pKa があり,pK1, pK2 などと表される(1)。
酸 | pKa | 文献 |
塩酸 HCl | -8 | |
乳酸 Lactic acid | 3.86 | 5 |
酢酸 Acetic acid | 4.76 | 5 |
アンモニウムイオン NH4+ (プロトンを放出するので酸である) | 9.25 | 5 |
炭酸 Carbonic acid |
pK1 = 6.37 pK2 = 10.25 |
5 |
リン酸 Phosphoric acid |
pK1 = 2.15 pK2 = 6.82 pK3 = 12.38 |
5 |
アミノ酸の pKa は,アミノ酸のページにあります。 |
1.8 から 13 と広い |
5 |
これは単純な式変形だ。
上の式で,半分だけ解離しているのだから [RCOO- ] = [RCOOH] である。するとこれらがきれいに約分されて,
Ka = [H+]
よって
pKa = pH
弱酸 HA が
HA ⇌ H+ + A-
のように電離するとき,以下の Henderson-Hasselbach の式 が成り立つ(5)。導き方は省略するので,教科書などを参照のこと。
この式からは,様々なことがわかる(5)。
この式をグラフにプロットすると,右の図(7)のようになる。
X 軸は pH - pKa,Y 軸は電離している HA の割合である。
このセクションでは,平衡,平衡移動の概念と pKa を繋げることを試みる。考える平衡は HA ⇌ H+ + A- であるが,具体例として酢酸の平衡
CH3COOH ⇌ H+ + CH3COO-
をイメージしよう。酢酸の pKa は約 5 である。
まず,一定量の水に 1 g の酢酸を加えたら pH が 6 になったとする。これに,さらに 1 g の酢酸を加えたら pH が 5 になった。このとき,解離度や平衡にどのような変化が起こっているだろうか? 温度などの条件は一定とする。
酢酸の pKa を 5 として考えると,温度・圧力一定の条件下では,この値は変わらない。たとえ平衡が左右に動いても変わらない ので,上の条件では定数として扱ってよい。
pH = 6 のとき,
なのだから log([A-]/[HA]) = 1 である。したがって [A-]/[HA] = 10 となり,[A-] = 10 x [HA] である。[HA] は加えた酢酸全体の濃度ではなく,「加えた酢酸のうち,電離していないものの濃度」であることに注意しよう。
CH3COOH ⇌ H+ + CH3COO-
の式で CH3COOH の 10 倍の CH3COO- があるのだから,平衡はかなり右に寄っているというイメージだ。
さて,さらに酢酸 1 g を加えて pH = 5 になったとき,同様の計算によって [A-] = [HA] である。つまり,酢酸のちょうど半分が電離している状態。上で述べた pH = pKa = 5 の状態だ。pH = 6 の状態から考えると,平衡が左に移動し,電離度が下がったと考えられる。
これは,CH3COOH を加えたので,それを打ち消す方向に平衡が移動した(ルシャトリエの原理)と理解できる。このことから,酸の濃度が上がると,電離度は下がる という一般則を導くことができる。
pKa は,滴定実験から求めることができる。計算式は,文献 8 にわかりやすくまとめられていた。Henderson - Hasselbach の式を実際に使うことになる。
ある弱酸 HA を,強塩基の水酸化リチウム LiOH で滴定する実験を考える。すると,[A-] および [HA] は,実験的に得られる以下のパラメーターを用いて表すことができる。すなわち,
としたとき,
である。どちらの式も,分子の単位は濃度 x 体積(つまり酸および塩基の量),分母の単位が濃度であるので,全体としての単位は濃度になる。
なお,考える反応は
HA + LiOH ⇌ H2O + Li+ + A-
であり,いくつか重要な事項がこの立式に込められている。確認しておこう。
[A-] は Li+ との濃度と等しく,最初の式で与えられることになる。分子は加えたアルカリの量,分母は溶液の全体量である。
[HA] は,もともとの酸の全体量から,加えたアルカリの量を引くことで求められる。加えたアルカリの分は,完全に電離していると考える。
式変形から,
この式で,pKa 以外は全て滴定実験から得られるデータになる。縦軸に pH,横軸に log の値をプロットすると直線状のグラフとなり,その切片が pKa になる。