12-23-2016 updated
関連項目
海馬の機能に関係する行動実験
マカクの脳のニッスル染色像(8)。点線で囲まれた部分が海馬。
ヒト海馬の位置と模式図。
Stylised Diagram of the Hippocampus, Frank Gaillard, GNU Free Documentation License.
海馬 hippocampus は,記憶 memory を司ることで有名な脳 brain の一部である。
海馬体 hippocampal formation という大きな構造の一部であり,しばしば混同されるので注意が必要。海馬はさらに CA1, CA2, CA3 の領域に分けることができる。
大脳辺縁系 Limbic system
海馬体 Hippocampal formation
海馬 Hippocampus
CA1
CA2
CA3
CA4
歯状回 Dentate gyrus
海馬台(海馬支脚) Subiculum
前海馬支脚 Presubculum
傍海馬支脚 Parasubiculum
海馬傍回 Parahippocampal gyrus
嗅内皮質 Entorhinal cortex
嗅周囲皮質 Perirhinal cortex
海馬傍皮質 Parahipoccampal cortex
赤で示した部分が海馬(9)
海馬の重要な性質は以下の通り。
海馬は記憶 memory に関係することがよく知られているが,実は,多くの研究が 海馬には大きく分けて 2 つの機能がある ことを示唆している。 このサイトでは文献 7 の概念に沿って海馬の機能を分類している。
海馬が 2 つの異なる機能をもっている証拠として,以下の 3 つが挙げられている(7)。
|
Cold cognitive hippocampus |
Hot emotional hippocampus |
霊長類 | 後方 posterior | 前方 anterior |
齧歯類 | 背側 dorsal | 腹側 ventral |
機能 |
記憶,とくに陳述記憶 declarative
memory を司る領域。ラット海馬のページに,contextual fear conditioning test で記憶と海馬の関係を示した例を載せている。 |
感情 emotion
を司る領域。 |
> 1937 年に medial temporal lobe (海馬を含む構造) を除去するとサルの感情が低下することが報告された(7)。
: Emotion, disappointment, frustration に関係するという記述もある。
> 海馬の萎縮は,統合失調症 schizophrenia, うつ病 depression など多くの精神疾患でみられる症状である(7)。
腹側と背側,さらにこれらの中間にある intermediate hippocampus は,上記のように異なる機能をもっているが,もちろん多くの相互作用がある。おそらく perirhinal, postrhinal cortical area が相互作用を仲介している(5)。
> Ventral hippocampus からの情報は,おそらく mPFC などの皮質領域を介して dorsal hippocampus に届く(5)。
: これは記憶の形成に重要と考えれられている。
Dorsal CA1 | Ventral CA1 | |
特徴 |
最も多くの place cell が存在する(5)。 Subiculum (SB) との繋がりが強く,complex と考えてよい(5)。 |
|
投射先 |
Dorsal parts of SB, pre-SB, post-SB (5).
サルとラットでは CA1-SB から retrosplenial & anterior cinculated cortices へ強い投射 (5)。これは学習 learning や記憶 memory など cognitive process に関係している。 |
嗅球 olfactory bulb および嗅覚情報を処理する皮質領域への投射がある。Dorsal CA1
にはこの投射はない(5)。嗅球喪失でうつ病のような症状が出るが,この投射が原因かもしれない。
Ventral CA1-ventral SB には,amygdala と強い双方向性の投射がある(5)。 これらの領域は,さらに mPFC (infralimbic, prelilmbic), insular cortex と密接に繋がっている。 |
空間記憶 spatial memory は,齧歯類モデルなどを迷路を使った行動試験に用いることで測定できる。Posterior/dorsal hippocampus が関わっているが,齧歯類では ventral hipp の関与もあると考えるのが一般的なようだ(7)。
詳細はラット海馬のページへ。
> タクシードライバーが複雑な道を思い出すときには,right posterior Hipp が活性化する(7)。
> Nitric oxide synthase, calretinin, somatostatin, parvalbumin を発現する4種に分かれている(3D)。
: すべて GABAergic neuron である。
> PV-expressing neurons には,basket cells, axo-axonic cells, bistratified cells の3種がある(3D)。
: これらはいずれも脳波 EEG の形成に関与している。脳波は記憶や認識に重要とされる。
: 統合失調症の患者では,PV-expressing neuron の数が低下している。
: とくに,GABAA 受容体よって制御される gamma oscillations が重要な脳波である。
: PV-expressing neuron のない患者や MAM model rat では,gamma oscillation もみられない。
原則として,海馬とその他の領域の connection はヒト,ラット,ネコ,サルでよく保存されていると考えられている(7)。
> Ventral hippocampus(vHipp)は,VTA 領域のドーパミン作動性 neuron を強く制御している(1I)。
: vHipp が活性化すると,DA neuron の population activity(自発発火する神経の数)が増大する。
: これは,vHipp - 側坐核 NAc - 腹側淡蒼球 ventram pallidum という投射による。
: Population activity が上がると,求心性グルタミン酸作動性ニューロンが活性化しやすくなる。
: つまり,末梢からの刺激に対して中枢が応答しやすくなるということ。