2-1-2015 updated
関連項目
ラットの海馬は,大脳皮質 cortex と脳梁 corpus callosum の下から脳幹部を占める大きな構造である。図をいくつか論文から転載しておく。いずれも CC BY の雑誌である。
ヒトの脳での上下関係
大脳辺縁系 Limbic system
海馬体 Hippocampal formation
海馬 Hippocampus
CA1
CA2
CA3
歯状回 Dentate gyrus
海馬台(海馬支脚) Subiculum
前海馬支脚 Presubculum
傍海馬支脚 Parasubiculum
海馬傍回 Parahippocampal gyrus
嗅内皮質 Entorhinal cortex
嗅周囲皮質 Perirhinal cortex
海馬傍皮質 Parahipoccampal cortex
ラット脳の 3D アトラス(5)における海馬の位置。
文献 6 より
> 海馬内および他の領域との間の神経の投射パターン connectivity は,ヒト,サル,ラット,ネコでよく保存されている(3)。
海馬に依存する記憶,しない記憶については多くの議論があるが,以下の実験ではクリアに分離することができる(7)。
> Contextual fear conditioning test で,海馬依存的,非依存的記憶が分離されている(7)。
: ラットまたはマウスをチャンバーに入れ,特定の音のあとに電気ショックを与える。
: 再び同じチャンバーに入れると,音がなくても動物は恐怖のためフリーズする。
: 見た目が異なるチャンバーではフリーズしない。
: 見た目が異なるチャンバーに入れ,音を聞かせると,やはり動物はフリーズする。
: 海馬の機能不全(genetic, pharmacological, lesion)は,音によらない効果のみを impair する。
> 放射状迷路 radial arm maze で,海馬が作業記憶 working memory に重要なことを示した実験がある(2)。
: 8 本のアームのある迷路で,全ての迷路の先に餌をおき,ラットを入れる。
: ラットは,最初は非効率的に餌を探索する。
: 訓練すると,1 本のアームに 1 回しか訪れなくなる。 i.e. どこを探索したかを記憶する能力がある。
: 海馬を予め破壊しても,迷路を進めば餌があることは学習する。探索行動は行う。
: しかし,すでに探したアームを避けるという効率的な探索方法を学習することができなくなる。
ラットの海馬と空間記憶 spatial memory の関係は,Morris water maze でよく調べられている(4)。 空間記憶は dorsal Hipp に制御されており,ventral Hipp とは関係していない。
> Dorsal Hipp を 25% 失うと,Morris water maze の成績が低下する(4)。
: しかし,さらに ventral Hipp にダメージを与えても,成績はそれ以上低下しない。
> Water maze をでトレーニングしたラットでは,dorsal Hipp で様々な遺伝子の発現が増大する(4)。
: Right dorsal Hipp で発現量の変化が大きい。
> Radial arm maze でも,dorsal hipp lesion のみが成績を低下させる(4)。
ここでは,2014 年ノーベル賞受賞者 O'Keefe らの 場所細胞 place cell に関する実験について述べる(2)。これらは,ラットが特定の場所にいるときにだけ発火する細胞である。
> 場所細胞は,箱の中にいるラットが,たとえば 「北西の角」 など特定の場所に行ったときにのみ発火する細胞である(2)。
: 「北西の角」 に星などのマークをつけて,ラットに気づかれないように箱を回転させる。
: その後ラットを放すと,「北西」 ではなく 「星マーク」 の角で場所細胞が発火する。
: つまり,少なくともこの条件化では,場所細胞の発火は視覚 vision の刺激に基づくものであることがわかる。
> 海馬のシータ波 theta osscilation が記憶の形成に必要であることを示した論文(3R)。
: シータ波を作り出している medial septal (MS) 領域にテトラカインを注射,シータ波を消去。
: その結果,海馬のシータ波がなくなり,Morris water maze で測定した記憶力が低下した。
: 脳の一部と海馬をバイパスすることでシータ波を再生すると,記憶力も回復した。
: 電気刺激によってシータ波を再生しようとしたが,波形および行動の回復は微妙だった。
: ランダムな電気刺激を与えても,シータ波と記憶力は全く回復しなかった。
:
シータ波と記憶に,相関関係でなく因果関係があることを示した論文である。
感情やストレス応答は,ventral hippocampus に制御されていることが多くの lesion studies から示されている。
> Ventral but not dorsal Hipp lesion enhanced cold stress-induced ulcers (4).
イラスト,コラムが充実した神経科学の本。生化学の教科書に例えるなら,雰囲気としてはヴォートよりもハーパーの生化学に近い。
ニューロン,グリア,活動電位といった神経科学の基本から,精神疾患やシナプス際構築など,かなり specific な話題にまで展開している。動物の行動実験についても例がたくさん載っているが,あくまで神経科学に関係する範囲で扱われており,実験方法の詳細が載っているわけではない。
また,付録としてヒトの脳の詳しい図が載っているのも役に立つ。よく見る地図だけでなく,血管の分布や様々な断面が載っていて,構造を理解しやすい。