2-14-2016 updated
関連項目
細胞の内側と外側に存在する電位の差を膜電位 membrane potential という。一般に,細胞の内側は外側よりも電位が低い。膜電位は単細胞生物を含む全ての細胞に存在する。
このページでは様々な膜電位を紹介するので,まずはその上下関係を整理しておこう。
神経細胞 neuron は,静止状態では約 -65 mV の膜電位を保っており(文献によっては-70 mVとも),これは静止膜電位 resting membrane potential と呼ばれる(1)。この電位が保たれるメカニズムとして,以下のものが知られている。
以上のようなポンプおよびチャネルの働きから,神経細胞内外のイオン濃度は下の表のようになる(1)。イオンの平衡電位 Eion とは,それぞれのイオンの濃度差と釣り合う状態の電位差である。つまり,たとえばナトリウムイオンの寄与だけを考えた場合,静止膜電位は 62 mV になる。 計算の詳細は -> ネルンストの式へ
イオン | 細胞外濃度(mM) | 細胞内濃度(mM) | イオンの平衡電位(Eion, mV)およびコメント |
Na+ | 150 | 15 | 62 |
K+ | 5 | 100 |
-80 細胞外濃度を上げると心臓が止まって死亡する |
Ca2+ | 2 |
100 nM (文献 2) |
123
カルシウムは多くの炭酸イオンまたはリン酸イオンと溶解性の低い塩を作るため,細胞内濃度が低い必要がある。逆に,このために 2nd messenger として使われていると思われる。 |
Cl- | 150 | 13 | -65 |
神経細胞が静止膜電位を保っている状態を,膜が分極 polarization しているという。膜電位は状況に応じて変化するが,正方向への変化を脱分極 depolarization,負方向への変化を過分極 hyperpolarization という。
膜電位を作り出しているのは細胞の内外におけるイオンの濃度差であり,有名なものにナトリウムポンプによって生じるNa+と K+ の濃度勾配がある。
すなわち,この分子は ATP を 1 分子分解するごとに 3 分子の Na+を細胞外に汲み出し,2 分子の K+ を取り込む。ここでイオンのバランスが崩れ,細胞内が負に帯電する。
このようなイオンの動きは細胞が生きている限り止まることはないが,ある電位で平衡に達し,見かけ上膜電位が変化しなくなる。このときの膜電位が静止膜電位で,その値は約 -65 mV である。
神経細胞 neuron の静止膜電位 resting membrane potential は約 -65 mV である。この値には,上記のナトリウムポンプによる 3:2 のイオンの交換の他に,カリウム漏洩チャネル potassium leak channel が関与している。
ニューロンでは上の図のようなNa+と K+ の濃度勾配が生じており,それに応じてそれぞれのイオンに浸透圧のような力が加わる。つまり,Na+は細胞内へ,K+ は細胞外へ向かおうとする。
この移動は,ナトリウムポンプではなくNa+と K+ に特異的なイオンチャネルを通して行われるが,神経細胞ではNa+チャネルは閉じており,K+ チャネルは開いている。
したがって,実際にはK+ の外向きの流れのみが生じ,膜電位が増大する。
細胞内外の電位差が,刺激によって一時的に逆転する現象を活動電位 action potential という(右図,wikipediaより。神経細胞の活動電位はこのように伝わる)。
活動電位については,こちらのページで詳しく解説します。
-> 跳躍伝導 saltatory conduction で,正電位がパルスとして伝わる様子を考察しています。
膜電位とは細胞膜を隔てた電位差なので,細胞に微小電極 microelectrode(直径0.5 μm 程度)を差しこみ,細胞外に置いた電極との電位差を測定することで測ることができる(1)。LFP も参照のこと。