6-17-2017 Last update
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関連項目
寿命に関する統計手法
適切な栄養状態を維持したまま,摂取するカロリーを減らすことを カロリー制限 calorie restriction or caloric restriction という。 老化 aging の遅延,寿命 lifespan の延長などを引き起こすことが多く,健康に長生きするための手段として着目されている。
ただし,摂取カロリーを維持したまま特定の栄養素を減らしても,寿命の延長がみられる場合がある(たとえばタンパク質制限 protein restiction; ref 3I )。 この現象まで含めた概念として,食事制限 dietary restriction という言葉も提唱されている。ショウジョウバエの研究では,こちらが使われることが多いようである。
カロリー制限が寿命を延ばすことは有名で,論文数も膨大である。このページでは,生物ごとに簡単に概要を紹介するとともに,餌の量を振ってカロリー制限の影響を調べることの重要性について まとめる。
> 2009 年に DR が Resus monkey の寿命を延ばすという論文が発表された(9)。
: Wisconsin National Primate Research Center からの論文で,20 年にわたる飼育実験である。
: 論文発表の時点で 50% の control animal と 80% の CR animal が生存している。
: 寿命だけでなく age-associated pathologies(糖尿病,ガン,心筋症,脳の萎縮など)も抑えられた。
カロリー制限によるラット rat の寿命延長は,McCay (1935) で報告された(6)。この論文は古典として様々なところで引用されている。
タイトルは The effect of retarded growth upon the length of life span and upon the ultimate body size であり,体サイズの減少が及ぼす影響と捉えていたと思われる。
> McCay (1935): 106 匹のラットを3グループに分け,寿命だけでなく成長なども測定(6R)。
: Group I (AL), 平均寿命オス 483 日,メス 801 日。
: Group II (離乳後にDR), 平均寿命オス 820 日,メス 775 日。
: Group III (離乳後 2 週間 AL, その後 DR)。平均寿命オス 894 日,メス 826 日。
: Groups II, III の DR は,体重が増加しないように餌の量を調整している。
> C57BL/6 miceでは,1 日おきに給餌する IF,毎日のカロリーを 60% にするCCRのどちらでも寿命延長(1I)。
: CCR は,この論文ではLDF (limited daily feeding) と呼ばれている。
: 9 週齢まで AL で飼育し,その後 LDF は 60% 給餌,IF は一日おき給餌をしている。
: 両方でインスリン感受性が増大し,神経が保護されることを示唆する結果が得られたが程度が違った。
: LDFでは,カロリーを40%減らすと体重は49%低下する。つまり燃費も悪くなる。
: IF で餌の総摂取量は変わらなかった。餌がある日は2倍ぐらい食べているということ。
: IF で IGF-I と β-hydroxybutylate が増えるが,LDF では減るのが大きな違いだった。
: 大事なのは総カロリー量だけではないと主張している(1R)。
ショウジョウバエでは,DR を理解する上で非常に重要と考えられる報告がなされている(5)。
右図のように,様々な餌の濃度で2系統の寿命を比較している。chico はインスリン受容体基質 IRS の相同分子で,Drosophila で欠損させると寿命が長くなることが報告されている分子である。
右の図からわかることは,以下の通りである。
Clancy et al. (2002) から引用
したがって,寿命を調べる実験においては,常にこの報告のように餌の濃度を振って,寿命が最大となるポイントで評価することが重要である。これはとても手間がかかるので,多くの論文では行われていない。寿命が延びる or 変わらない or 短くなるという矛盾した結果が報告されているときは,このような可能性も視野に入れて議論する方がよい。
> 幼少期(3rd instar larvae)でDRを行っても,寿命は延長しなかった(4R)。
: 体サイズの減少,繁殖の低下,インスリン様ペプチド産生細胞のサイズは低下。
: 逆に言えば,これらの現象は寿命延長の十分条件でないこともわかる。
C. elegans のカロリー制限に関する論文としては Klass (1977) が有名である(7) 。2014 年 5 月の時点で 474 回引用されている。
餌のバクテリア濃度を 0 から 1 x 1010 まで変化させて寿命を比較しているが,どこがカロリー制限で,どこが過給餌であるかという判断は難しい。
かっこの後ろの数字は産卵数で,これが最大となる 1 x 109 を最適な餌の量とすると,そこから段階的に餌を減らすことで寿命が延びていることになる。1 x 1010 は過給餌,5 x 107は餌不足と思われる。
Greer and Brunet (2009) から引用
DR という言葉は様々なタイプの摂餌制限に使われているが,摂餌を制限する方法には様々なものがあり,それらが同じ応答を引き起こしているという保証はない。
給餌方法の違いにより,DR は大きく以下の2つに分けることができる。詳細は CCR & IF のページにまとめる。1 は limited daily feeding (LDF) と呼ばれることもあり(1),給餌の回数はそのままにして量を減らすことである。2 では餌の回数が減らされる。
一般に,CCR および IF は両方とも寿命を延ばすが,その程度などに違いがあり,異なる応答が起こっていると考えられている。
なお,C. elegans では少なくとも 8 種の CR 方法が報告されている(8I)。
カロリー制限は,一般に 早い時期の方が影響が大きい。