5-11-2017 Last update
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関連項目
メイナード・スミスの定義(文献1):
「老化とは,心身機能の進行性の衰退をもたらし,結果として死の危険を増大させるような現象である」
その他,原著論文で老化の定義について言及している表現。
しかし,一般の辞書では aging は「加齢(単に年月が経って変化が起こること)」を意味し,機能の低下というニュアンスをもつ「老化」には senescence が該当する場合が多いようである。Oxford online dictionary では
と定義されている。
The disposable soma theory は,寿命がなぜ存在するか,またどのように決定されるかを説明する理論であり,概要は以下のようなものである(文献 1, p.108 から)。
この説明に加えて,エネルギーを体細胞に投資すると,生殖細胞には投資できないというトレードオフ trade-off が前提となっている。これは「生命は限られたリソースを分配して生きている」とする考え方である。
1. 突然死の確率が高い環境にいる生物ほど,生殖細胞への投資は大きくなる。
突然死の確率が高い場合,体細胞に投資するエネルギーが無駄になる場合が多い。早熟な個体が選抜される傾向が強まり,集団の早熟化が進む。また,カロリー制限 dietary restriction で寿命を延ばす能力は低下する。
実際に,以下のような現象が報告されている。
> 一般に,小さい動物より大きい動物の方が長寿。捕食による突然死の確率が低いためと考えられる(1)。
> 鳥類は移動能力が高く,一般に同じサイズの哺乳類よりも寿命が長い。しかし飛べない鳥は寿命が短い(1)。
> コウモリはラットと同じぐらいのサイズだが,ラットより長生きで子供の数は少ない(1)。
> 野生のマウスは,実験動物のマウスよりもカロリー制限で寿命が延びにくい(2)。
2. Germ line と soma の区別がない生物は老化しない。
ヒドラは体のどの細胞からも全体を再生することができ,germ line と soma の区別がないと考えられている(4)。実際に,ヒドラは 4 年間培養しても生存率や繁殖率の低下が観察されず,老化しない生物である可能性が高い。
> ヒトでは年齢とともに死亡率は指数関数的に増大し,これはゴンペルツ・パターンと呼ばれる(1)。
> つまり,ある年齢に特有の死亡率「齢固有死亡率 age-specific mortaligy 」があるということになる(1)。
: 1825 年に保険数理士ゴンペルツによって発見された。ヒトの死亡率は 8 年ごとに 2 倍になる。
: 100 歳以上では,age-specific mortality はゴンペルツ・パターンから外れ,やや緩やかになる。
> イギリスでは,1990 年代の平均寿命は 1880 年代の 6 割増(1)。主に若い死亡例が減ったためである。
アウグスト・ヴァイスマンは,1881年に老化の機構を科学的に説明しようとする最初の理論を提唱したドイツの動物学者である。
生体物質には「生殖質」と「体質」があると考えていた(現在でいう germline と soma であろう)。生殖質は遺伝情報を伝える物質で,変わることはない。これに対して,体質は体を作る物質で,時間が経てば老化する。この前提のもと,「生物が死ぬのは,損なわれた組織を永遠に再生し続けることができないためである」と提唱した。
Kirkwood は,これは循環論法であると指摘しており(1),有害な宿命論を生み出していると批判している。
フロイトもこの理論から強い影響を受け,「生物は普遍的な死の衝動」をもっていると提唱したが,この概念は現在はほとんど支持されていない。