親の状態が子供の寿命に与える影響

5-11-2017 Last update

 

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  1. 親の年齢の影響(ランシング効果)
    1. ヒト
    2. マウス
    3. ショウジョウバエ
    4. 線虫
    5. その他の動物
    6. メカニズム
  2. 親の栄養状態の影響
    1. タンパク質栄養
    2. 肥満・糖尿病


親の年齢の影響(Lansing effect)

親の年齢が高いと,子供の寿命が短くなることが古くから知られている(1I)。これは ランシング効果 Lansing effect と呼ばれる。

 

ヒト

> 大規模調査から,若い母の子供は寿命が長いことを示した 1918 年の Bell の報告がある(1I)。

: Rotifer という動物で Lansing が発表した論文が有名で,ランシング効果という名前がつけられている(8)。

: メカニズムは不明な点が多く残されている。

 

> 親の年齢が高いほど,子供の知性が上がるという概念は 1900 年代初頭からあった(Reviewed in ref. 8)。

: Socioeconomic reason は大きな要因である。高齢な親は経済的な余裕があり,よい教育を受けさせられる。

: ただし,親の年齢と子供の知性は U shape の関係という報告もあり,生物学的要因も提唱されている。

: 精子の DNA integrity が高齢の父親では高いという報告があるようだ (Sartorius, 2010)。

 

> 親の年齢に伴って,様々な病気のリスクが上がることが知られている(8)。

: ダウン症 down syndrome の確率は 20 歳の親で 1/2300 だが,45 歳の親では 1/45 である。

: 統合失調症 schizophrenia や自閉症 autism のリスクも上がる。

: Cleft lip, without cleft palate など,奇形のリスクも上がる。

 


マウス

> マウスでも,老化した母から産まれた子は寿命が短いことが報告されている(7)。

: 近親交配による悪影響が出ないように、異なる系統のF1を使い、F2の寿命を調べている。

: 老化した母から産まれた子では、オスの比率が低く、寿命が短く、かつ体重が少ない。

: 性比への影響は種ごとに異なっており、一定の傾向はないと書いてある。ヒトでは老母 → オスが少なくなる。

 

 


ショウジョウバエ Drosophila

> ショウジョウバエでは,父母の年齢が両方とも影響し,母の影響の方が大きい(1)。

: Maternal age effect は,最大で 26% の寿命の短縮をもたらす。

 


線虫 C. elegans

> 親の年齢が高いほど,子の平均寿命が短くなる(3)。影響は小さいが,統計的に有意であった。

 

> 親世代でクロマチン構造が変わると,子世代の寿命が影響することを示した論文(4)。

: H3K4me3 regulatory complex: ASH-2, WDR-5, SET-2 から成り,欠乏すると寿命が延長する。

: これはヒストンのメチル化に関わる複合体で,酵母からヒトまで保存されている。

: 親世代で WDR-5, ASH-2, SET-2 のいずれかを欠損またはノックダウンすると ,次世代の寿命が延長する。

: 世代をまたぐ効果は,全般に数世代程度であった。

: 世代をまたぐ効果は RBR-2-dependentであり,functional adult germline が必要であった。


その他の動物

> カイアシ類 Acartia tonsa では,老化した母の子供はタンパク質のカルボニル化が進んでいる(2)。

: 寿命の変化には,活性酸素が影響していると思われる。

 

> 野生のシジュウカラでは,寿命と total fitness に親の年齢は影響しないという論文が出ている(6)。

: ただし,老化した親から生まれた子供は老化が早く,産仔数の減少も早期からみられる。

: Lifetime reproductive succes には親の年齢の影響はみられない。理由はよくわからない。

 


メカニズム

> Maternal age effect の原因はミトコンドリア機能の減衰とエネルギー不足である,という仮説がある(10)。

: ミトコンドリアは母系遺伝であるが,セントロメアは精子のみから伝わる。

: 通常,epigenetic modification は配偶子形成の際に消去されるが,いくつかは次世代に伝わる。

 


親の栄養状態の影響

 

一般に,親の栄養状態が悪いと子供は肥満 obesity になりやすい(9D)。エネルギーをあまり消費せずに,蓄えるようにプログラムされてしまうと考えられる。

 

> 妊娠前の影響状態の影響を,マウスで F1 および F2 と 2 世代にわたって調べた論文(9)。

: 妊娠前の 50% カロリー制限は,F2 の体重を増やし,寿命を短くする。

: 親が妊娠時に catch-up しているのでは? 妊娠時の栄養過剰の影響をみているとは考えられないか?

 

タンパク質栄養

> タンパク質制限された親から生まれたマウスは体が小さく,授乳後に catch-up growth を示す(5I, 5R)。

: 出生後にタンパク質制限した postnatal low protein (PLP) mice と catch-up した R mice を使った論文。

: PLP mice は長寿である。

: 一般に R mice の寿命は短くなる。Developmental origin of health という概念である。

 

: PLP mice は 膵臓,脾臓,腎臓,肝臓,心臓などが小さいが,R mice ではむしろ大きい。

: PLP mice は fasting glucose, fasting insulin 量が対照群より低いが,R mice は対照群と変わらない。

: R mice では PKC, IGFIR, IRS1, p85, p110 などインスリン系のタンパク質量が低下する。

: PLP mice でもやや低下するが,R mice の方が consistent に下がっている感じ。

: Sirt1 は PLP mice で対照群と変わらず,R mice で低い。


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References

  1. Priest et al. 2002a. The role of parental age effect on the evolution of aging. Evolution 56, 927-935.
  2. Rodriguez-Grana et al. 2010a. Gender-specific ageing and non-Mendelian inheritance of oxidative damage in marine copepods. Mar Ecol Prog Ser 401, 1-13.
  3. Klass 1977a. Aging in the nematode Caenorhabditis elegans: major biological and environmental factors influencing life span. Mech Ageing Dev 6, 413-429.

  4. Greer et al. 2011a. Transgenerational epigenetic inheritance of longevity in Caenorhabditis elegans. Nature 479, 365-371.
  5. Chen et al. 2009a. Maternal protein restriction affects postnatal growth and the expression of key protein involved in lifespan regulation in mice. PLoS ONE 4, e4950.
  6. Bouwhuis et al. 2009a. Trans-generational effects on ageing in a wild bird population. J Evol Biol 23, 636-642.
  7. Tarin et al. 2005a. Delayed motherhood decreases life expectancy of mouse offspring. Biol Reprod 72, 1336-1343.
  8. Liu et al. 2011a (Review). Parental age and characteristics of the offspring. Ageing Res Rev 10, 115-123.
  9. Araminaite et al. 2014a. Maternal Caloric Restriction prior to Pregnancy Increases the Body Weight of the Second-Generation Male Offspring and Shortens Their Longevity in Rats. Tohoku J Exp Med 234, 41-50.
  10. Wilding 2014a. Can we define maternal age as a genetic disease? FVV in OBGYN 6, 105-108.