11-5-2016 updated
関連項目
老化のプログラム説 The programmed aging theory は,老化に至る過程が DNA に予めプログラムされているとする説である。これは,個体が老化することが結果的に餌の競合などを防いで,その種の利益になることから老化のメカニズムが進化したという考えに基づく(1)。
図は文献 2 から作成。
生物が意図的に自らの利益を減らすという現象であり,以下のような理由から,現在では否定的な評価を受けることが多い。
ただし,以下のような「広義のプログラム説」は再評価を受けている。
「自殺遺伝子」のような極端なプログラムではなく,遺伝子によって寿命が規定されているという広い意味での「プログラム」の存在は,多くの証拠から確実である。以下の酸化ストレス説が典型的な例である。
代謝の副産物として生じる活性酸素 ROS が生体にダメージを与え,そのために ROS を解毒する抗酸化システムがある(参考: 老化の酸化ストレス説)。
これは,non-programmed な酸化ダメージの蓄積と,programmed な防御システムの両方を仮定した考え方である(2)。クラシックな non-programmed aging theory が,完全にランダムな老化ブロセスを想定するならば,酸化ストレス説は programmed theory を支持すると言える。
> Non-programmed theory は,以下のような点を十分に説明しきれていないという批判がある(2)。
: たとえば魚の寿命は種によって数百倍も違う。プログラムなしで,こんなに差が出るものだろうか?
: サケなどは,明らかに自殺に近いことをしている。
: ヒドラなど,老化の兆候を示さない生物もいる。防御システムは,常識的な範囲では完璧になり得る。
: それなのに多くの生物が老化するのは,やはり防御システムの意図的な減弱ではないか?
単細胞生物の酵母にもアポトーシスの機構が備わっていることが明らかにされており,これは自殺機構が進化しうることを示唆している。
エラー説 は,加齢に伴って生体に 酸化ストレス などによるエラーが蓄積し,これが老化の原因になるという説である。この説に生殖細胞系列/体細胞系列という概念が加わると,使い捨ての体理論 disposable soma theory に近いものになる。
プログラム説およびエラー説は有名な学説であるが,文献 1 ではこれに加えて 摩耗説 が紹介されている。これは熱力学の第二法則(閉鎖系ではエントロピーは必ず増大する)を根拠として老化を説明しようとする学説のようである。生物は開放系であり,熱力学の第二法則は適用できない。
Goldsmith 2013a. Arguments against non-programmed aging theories. Biochemistry (Moscow) 78, 971-978.