5-31-2014 updated
The rate of living theory には,良い日本語訳がないように思われる。この説は Rubner が1908年に提唱したのが最初とされており,以下のような内容を骨子とする。
関連する現象として,以下のようなことが挙げられる。
> 大きい動物は,一般に小さい動物よりも代謝が遅く長寿である。ゾウとネズミなど。
: ここでいう「代謝」は,餌の量や酸素消費量などから推定されるものと思われる。
> ショウジョウバエなどの変温動物で,低温で飼育すると代謝が下がって寿命が長くなる。
代謝の副産物として活性酸素(ROS, reactive oxygen species)が発生することを考えると,この説は老化の酸化ストレス説 The oxidative theory of aging と深い関わりを持っている。つまり,老化によって酸化ダメージが蓄積することが resouce の消費に相当することになる。
> Brys (2007) では,rate of living/oxidative damage theory という言葉を使っている(1)。
Resouce の使い道として自己の維持 self maintenance と繁殖 reproduction を想定すると,disposable soma theory に近い内容になる。この仮定のもとでは,繁殖によって自己の維持に何らかの不都合が生じる可能性があるので,繁殖のコスト cost of reproduction の考え方にも関係が深い。
> 動き locomotion の活発さも resouce の使い道に含まれることもある。
> Pearl (1928) "The rate of living" もよく引用されている。
: これは,高温で飼育した Drosophila の寿命が短いという Loeb & Northrup (1917) を根拠とする。
原則として,種を超えてこの理論は適用できない。これは,代謝の結果として生じる作用の扱い方(ROS について考えるならば,どのようにそれを無毒化するか)が種によって違っているためである。無毒化に多くのエネルギーを使う種ならば,代謝が高くても長生きすることが可能である。
> 鳥類は一般に同じサイズの哺乳類よりも代謝が早いが,寿命も長い。
> コウモリも同様で,同程度の代謝速度をもつ他の哺乳類よりも約 3 倍長く生きる()。
この点において,The rate of living theory は,生物が「自己の維持」と「繁殖」にエネルギーを振り分け,その配分によって老化の速度や寿命が決まるとする「使い捨ての体理論 The disposable soma theory」に内包されると考えてもよいかもしれない。