3-16-2016 updated
> 体内の状況をモニターする神経の多くは無随神経である(1)。
: たとえば,迷走神経 vagus nerve の80%はミエリン鞘がなく,残りの 20% も少ない。
> 脂質およびタンパク質は生体膜の主な構成成分だが,ミエリン鞘のタンパク質含量は約 18% と低い(5)。
: 一般的な細胞膜は約 50%,ミトコンドリアや葉緑体膜は約 75% のタンパク質を含んでいる。
ミエリン鞘の利点は,跳躍伝導 saltatory conduction によって伝達速度を上げられることである。
ミエリン鞘をもつのは,脊椎動物,節足動物および環形動物であり,比較的「進化した」生物群であるため,しばしば「進化に伴ってミエリン鞘を作り,伝達速度を上げる(速い応答を引き起こす)ことが可能になった」と説明される。
しかしながら,脊椎動物でも多くの神経がミエリン鞘をもたない無随神経から成っており,単純に「伝達速度が速ければよい」というわけではない。ミエリン鞘のデメリットとしては,以下のような点が挙げられている。
> ミエリン鞘を作り,その代謝を維持するためにはエネルギーが必要である(1)。
: コストに見合うような,ある程度以上の径をもつ神経のみが有随神経になる。
> ミエリン鞘は軸索を絶縁してしまうため,隣り合う神経同士の情報交換ができなくなる(1)。
: 隣り合う神経は,ephaptic transmission とよばれる電気的な情報交換を行っている。
: これはシナプスによる情報交換とは異なる。シナプスは上下関係である。
: Ephaptic transmission は,哺乳類のolfactory/vagus nerve, peripheral nerves などで行われる。
> 軸索にはホルモンなどの受容体が存在するが,ミエリン鞘はこの情報伝達も阻害する(1)。
> 魚類である trout の脳神経もミエリン化されている(4D)。
: Turbot でも発生過程で脳のタンパク質やコレステロール含量が増加し,ミエリン化を示唆している。
組織切片を使ってミエリン鞘を検出する実験法としては,1953 年に Klüver と Barrera によって報告された Luxol fast blue(LFB)染色が一般的である(3)。Cresyl violet によるニッスル染色 Nissl staining と同時に行う KB 染色(Klüber Barrera 染色)もよく用いられる。
これらの染色は凍結切片でも可能であるが,パラフィン切片の方が美しい染色像を得ることができる。凍結切片を用いる場合には,ミエリン鞘のマーカーである MBP (myelin basic protein) や CNP (2',3'- cyclic nucleotide-3'-phosphohydrolase) の免疫染色を行うことが多い。
Molecular Probes では,ミエリン鞘およびニッスル染色に対応する蛍光色素 FluoroMyelin Green とNeuroTrace 530/615 を販売している。