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シナプス synapse とは,神経細胞 neuron 間またはニューロンと他の細胞の間に形成される接合部位のことである(4)。ここでは,ニューロン同士が形成する化学シナプスについて解説する。
シナプスでは,一般に情報はニューロンから標的細胞へと一方向に流れる。そのため,上流のニューロンを presynaptic,標的細胞を postsynaptic と表現する。ニューロンには軸索 axon,樹状突起 dendrite,細胞体 cell body があるので,シナプスには以下のように色々な種類がある(4)。
また,シナプスは前膜と後膜の厚さの比から,機能を推定することができる。
シナプス前膜とシナプス後膜の間には,20 - 50 nm のシナプス間隙 synaptic cleft がある(4)。シナプス前膜の付近には,神経伝達物質を含むシナプス小胞 synaptic vesicle が多数存在する。
Wikipedia「シナプス」より転載。
A: シナプス前ニューロン presynaptic neuron
B: シナプス後ニューロン postsynaptic neuron
1: ミトコンドリア
2: 神経伝達物質を含む小胞
3: 自己受容体 autoreceptor
4: シナプス間隙 synaptic cleft
5: シナプス後膜 postsynaptic membrane 上の神経伝達物質の受容体
6: 電位依存性カルシウムチャネル VDCC
7: シナプス小胞から神経伝達物質が放出されている
8: 神経伝達物質の自己回収
化学シナプスのほかに,presynaptic cell と postsynaptic cell が繋がっていて,イオンが直接流れるような電気シナプス electric synapse もある。
電気シナプスでは,細胞同士が gap junction によって繋がっていて,その間はわずか 3 nm 程度しか離れていない(4)。コネキシン connexin というタンパク質が橋渡しをしており,6 個の connexin が結合して作るチャネルはコネクソン connexon と呼ばれる。
> イオンが直接移動するので,化学シナプスに比べて伝達が早い(4)。
: ザリガニでは,感覚ニューロンと運動ニューロンの間によくみられ,逃避反射を仲介する。
: 脊椎動物の脳にも存在する。
> 構造上,化学シナプスと違って情報の逆流がありえる(4)。
化学シナプスでみられる神経伝達についてまとめる。
Presynaptic cell の活動電位が上がる要因としては,以下のようなものが考えられる。活動電位については,跳躍電動 saltatory conduction で説明しているので参照のこと。
活動電位によってシナプス前膜が脱分極すると,活性帯にある電位依存性カルシウムチャネル VDCC が開く。
神経細胞内のカルシウム濃度は約 0.0002 mM と非常に低い(4)。そのため,濃度勾配によって VDCC が開いている間中,Ca2+ は細胞内に流入し続ける。細胞内 Ca2+ 濃度の上昇が,神経伝達物質を小胞から放出させるシグナルとして働く。
Ca2+ が神経伝達物質を放出させる正確な機序は,まだよく分かっていない(4)。しかし,少なくともエキソサイトーシス exocytosis による放出であり,放出に必要な時間の短さから,小胞は既に膜に接着していると考えられている。
> シナプス小胞 synaptic vesicle の中に,神経伝達物質が格納されている。
: Glu を小胞内に格納するのは,vesicular H+-ATPase である(1)。
> 一つの小胞内には,約 4000 個のグルタミン酸 Glu が含まれると考えられている(1)。
: 小胞の直径は約 50 nm であり,シナプス間隙と同じぐらいのサイズである(4)。
> 神経伝達物質の放出は,イカの軸索では Ca2+ が流入してから 0.2 ミリ秒以内に起こる(4)。
: 哺乳類では,一般に体温が高いのでさらに早く放出が起こる。
> パルブアルブミン parvalbumin は特定の介在ニューロンに発現する Ca2+ 結合タンパク質である。
: 細胞内に流入した Ca2+ と結合して,有効な Ca2+ 濃度を下げる機能がある。
分泌顆粒 secretory granule
> 水溶性タンパク質を含む直径約 100 nm の分泌顆粒 secretory granule もある(4)。
: ペプチドの神経伝達物質を貯蔵,放出する。
: これらの放出にかかる時間は,50 ms 以上とゆっくりである。
神経伝達物質は,シナプス後ニューロン postsynaptic neuron のシナプス後膜 postsynaptic membrane にある受容体に結合する。受容体には,神経伝達物質の種類によって様々な種類があるが,伝達物質作動性イオンチャネル transmitter-gated ion channel と Gタンパク質共益型受容体 G protein-coupled receptor (GPCR) に大別される(4)。
> シナプス前ニューロンにも,自己受容体 autoreceptor という神経伝達物質受容体がある場合も(4)。
: 一般的には,自己受容体は GPCR である。
: 原則として,negative feedback により神経伝達物質の放出を減らす機能をもっている。
神経細胞の静止膜電位は,約 -70 mV である。この状態では電位依存性ナトリウムチャネル VGSC は閉じており,resting state にある(2)。
一度活動電位が発生すると,VGSC は数百 ms で開口し(open state),大きなNa+ influx を生み出す。これは脱分極 depolarization とも呼ばれる。
脱分極が起こると,数 ms の間に VGSC は inactivated state になり,Na+ influxが停止する(3)。
その後,膜電位が静止状態の電位に戻ると VGSC は再び resting state になり,次の発火に備える。
-> 跳躍伝導にも説明あり。
> 様々なVGSC blockerが知られているが,これらは channel state に応じた結合様式の変化を示す(2)。
放出された神経伝達物質が,シナプス後膜上の受容体に結合してシグナルを伝えた後には,次のシナプス伝達が可能になるように,伝達物質がシナプス間隙から取り除かれる必要がある。
グルタミン-グルタミン酸サイクル
グルタミン酸作動性ニューロンは,脳神経の約90%を占める主要なニューロンである。したがって,グルタミン酸 Glu は,脳内で用いられている主要な神経伝達物質と言える。
> アストロサイトは Glu を3分子のNa+, 1分子のH+とともに取り込み,1分子のK+を放出する(1)。
> 取り込まれた Glu の1/3が Gln に変換される。このとき,Glu 1分子あたり1分子のATPが必要(1)。
: 1/4 は Glu のまま残る。または,GlnからGluに再変換される。
: 1/5 は Glu dehydrogenase によって TCA回路の中間体 α-ケトグルタル酸になる。
: 1/5 はおそらくアスパラギン酸に変換される。
> Gln がアストロサイトから放出される際は,おそらく system N-like transporter を通っている(1)。
: ニューロンに入るときも同様である。
: これは1分子のNa+を同時に輸送し,代わりに1分子のH+を放出する。ATPは使わない。