肥満の判定は,body mass index(BMI)によって行われる(2)。
BMI = 体重 (kg) / [身長 (m)]2
日本肥満学会が決めた判定基準では,統計的にもっとも病気にかかりにくい BMI = 22 を標準とし,25以上が肥満とされている。
> アメリカでは,成人の約30%が BMI > 30 kg/m2 の肥満である(4)。
> 肥満は糖尿病,心筋梗塞などのリスクを上げる。肥満に起因する医療費は$150 billionと見積もられる(4)。
> メタボリックシンドローム metabolic syndrome の病態は肥満,高血圧,脂質異常,耐糖能異常の4項目から判定(8)。
> 249,796人のヨーロッパ人を対象とした BMI とゲノム配列の association study がある(4)。
: 32の遺伝子座が BMI と関連していたが,これらは BMI のばらつきの1.5%しか説明できなかった。
: したがって,肥満は遺伝的要因よりも環境要因の影響を強く受けることが示唆された。
遺伝子 | 文献 | |
CNR1 (cannabinoid receptor 1, カナビノイド受容体1) | 3 | 多型がBMIや肥満のリスクと相関 |
OPRM1 (µ-opioid receptor 1) | 3 | 過食症やアルコール依存症のリスクと相関 |
Leptin レプチン | 5I | 脂肪細胞から分泌されるホルモン。食欲や代謝を制御。 |
Leptin receptor レプチン受容体 |
モデル | 原因遺伝子 | |
ob | Leptin | 早期肥満およびインスリン抵抗性を呈する有名なモデル。 |
db | Leptin receptor | 早期肥満,インスリン抵抗性など ob と似た表現型を示す(6I)。 |
LPL |
神経特異的な欠損で肥満を呈する。肥満の程度が非常に大きい(8R)。 |
モデル | 原因遺伝子 | |
Zucker | Leptin receptor |
早期肥満,インスリン抵抗性,高インスリン血症,高脂血症などを示す。かつては fatty と呼ばれていた。もっとも有名な肥満モデルである。 |
ZDF | Leptin receptor |
Zucker diabetic fatty の略。Zucker 集団から得られた肥満・糖尿病モデル。Zucker rat は通常は糖尿病を発症しないが,糖尿病になる個体の掛け合わせから ZDF が得られた。 |
DIO | Polygenic | Sprague-Dawley rat を高エネルギー食で飼育すると,約50%が肥満を呈し,残りは通常の体重のままである。前者をDIO (diet-induced obesity), 後者をDR (diet-resistant) という。 |
OP-CD | Polygenic | Obese prone CD rat。DIO or DR rat の選抜育種によって得られた系統。 |
OLETF | Polygenic |
Otsuka Long-Evans Tokushima Fatty の略。Long-Evans 系ラットの選抜育種で得られた。Charles-River では販売されていない模様。 |
ZFDM |
Zucker fatty diabetes mellitus の略。Zucker から文献7で選抜育種によって樹立された系統で,10週齢までに糖尿病を発症する。 |
モデル | 原因遺伝子 | |
GK (Goto-Kakizaki) |
Maybe polygenic |
2型糖尿病を早期発症するが肥満にはならない。1970年代に,Wister rat 集団から高血糖を指標とした選抜育種で得られた。 |
WBN/KOB |
|
生後約9ヶ月で,雄に高い確率で糖尿病を発症する。発症を早めるため,Zucker との掛け合わせた系統もある。 |
肥満の主要な原因の一つとして,食欲を抑制するための神経回路に異常がみられることが挙げられる(4)。
食欲の制御には,
の 2 つのメカニズムがある。報酬系による制御とは,おいしいものを食べたときにどの程度快楽を感じるかで食欲の強さが決まることである。これは神経系が中心であり,辺縁系 limbic region や大脳皮質 cortex のinsula, ACC やドーパミン系が関与している。
また,内分泌系と神経系に分けて考えることもできる(3)。
> 肥満の人は,口腔感覚(口,舌など)に関する脳領域の resting activity が高い(5I)。
> 実際にものを食べたときだけでなく,食物の写真や臭いでも脳は活性化する(6I)。
: 実験動物では,prefrontal cortex, amygdala, nucleus accumbens (NAc) が活性化するという報告あり。
> 美味しいものを食べたときには脳が満足感を覚える(reward)。食物と薬物(含アルコール)は競合する(3)。
: 肥満モデル動物は,薬物に対する反応が弱い。
: ヒトでも,BMI と違法な薬物使用に逆相関があることが報告されている。