アディポネクチン adiponectin は,哺乳類では脂肪組織 adipose tissue から血液中に分泌されるホルモンで,以下のような特徴をもつ。メタボリックシンドロームを抑制する分子 として注目されている。脂肪組織 adipose tissue 由来のホルモンとして,最初に同定された分子でもある(6I)。
> ATDC5 細胞の骨細胞への分化を促進する作用がある(4R)。
> 30 kDa, 244 アミノ酸から成るホルモンで,collagen VIII や 補体 C1q に似た構造をもっている(9)。
> 血液中では 18-mer までの大きな複合体として存在する(9)。
: 高分子なものほど活性が高い。
> レプチン leptin とは異なり,肥満の人ほど血中量が低い(9)。
アディポネクチンは主に 脂肪組織 WAT で産生されるホルモン であるが,その全てが脂肪細胞 adipocyte で作られるわけではなく,脂肪組織内のその他の細胞でも作られる。また,ゼブラフィッシュでは筋肉が主な産生組織であることも報告されている(3I)。
> 一般に,脂肪細胞からのアディポカイン分泌量は,脂肪組織からの分泌量よりも低い(1)。
: 脂肪細胞がアディポカインの主要な起源ではないことを示唆する。
: Adiponectin およびレプチン leptin は,例外的に主として脂肪細胞自身から分泌される adipokine である。
: 割合を算出すると,leptin の94%,adiponectin の64%が脂肪細胞に由来する。
> ニホンザル Macaca fuscata でも,adiponectin mRNA は白色および褐色脂肪組織のみで検出された(6R)。
: Northern blot: 5.15, 2.5, 1.15 kb の長さの異なる 3 つの mRNA があった。
: マウスでは,選択的スプライシングで長さの異なる mRNA が生じることがわかっている。
白色脂肪組織 WAT と言えば,通常は内臓脂肪 visceral adipose tissue (VAT) をイメージするが,実際には体の至るところに分布している(右図, 8)。
アディポネクチンの発現量は,VAT よりも 皮下脂肪 SAT (subcutaneous adipose tissue) で高い(7D)。
肥満度などとの相関を調べた研究でも,VAT よりも SAT の adiponectin が重要であることを示唆する報告が多いようである(7D)。
原則として インスリンの機能を活性化する ように作用する。
糖代謝では,グルコース取り込みの増大や肝臓での糖新生の抑制である。
> マウスで,アディポネクチン投与が肝臓の糖新生を抑制する(6I)。
> 骨格筋や肝臓でグルコース glucose の取り込みを活性化する(3I,16)。
: GLUT4 の発現および translocation を促進する(16)。
脂質代謝では,
> マウスで,アディポネクチン投与が筋肉の脂肪酸代謝を促進し,食欲の減衰を伴わずに体重を減らす(6I)。
> 脂肪酸の取り込みと酸化を活性化するが,抑制するという報告もある(3D)。
> Adiponectin の転写は,PPARγ, C/EBPα, SREBP で 正に, NFAT4, ATF3, AP-2 で負に制御される(5I)。
> このほか,3T3-L1 では IGF-Erk-CREB 経路にも制御されている(5R)。
: 上流に CRE があり,ここが CREB と結合する。ゲルシフトアッセイ。
: Point mutation を入れると転写が疎外される。
: ルシフェラーゼアッセイ,IGF-I は,adiponectin promoter を CRE および Erk-dependent に活性化する。
> カロリー制限で血中アディポネクチン量は上昇する(10)。WAT の量が減るため。
> Adiponectin TG mice は糖尿病になりにくく,すごく太ることができる。World's fattest mice である(4I)。
Adiponectin は,インスリン insulin と独立して脂質酸化およびグルコースglucose の細胞への取り込みを促進するためのホルモンで,飢餓によるインスリン抵抗性に対する適応として進化したという仮説が提唱されている(2)。
> Adiponectin は 2 型糖尿病の症状を改善するホルモンとして有名だが,これは進化圧にはならない(2)。
: 拒食症 anorexia の患者も,糖尿病患者と同様にインスリン抵抗性を示す。
: 貧栄養状態で血糖値を維持するための適応ではないか。