10-31-2013 updated
細胞内の油滴(lipid droplet, LD)は,リン脂質の一重膜に囲まれ,多くのタンパク質を含むオルガネラの一種である。LDの形成機構については不明な点が多いが,主成分であるトリアシルグリセロールが合成される小胞体が,LDの形成の場であると考えられている。
FITは小胞体に局在する膜貫通タンパク質で,LDの形成に重要な役割を果たす。ただしLDに局在するわけではないので注意(1)。
> 哺乳類はFIT1とFIT2をもっているが,両生類,昆虫など多くの生物は1個だけで,それはFIT2に似ている(1)。
: ゼブラフィッシュはFIT1, FIT2の両方をもっている。
: 酵母 S. cerevisiae は,2個のFIT2をもっている。
> PPARα依存的に,そのアゴニストである fenofibrate で発現が増える未知の遺伝子としてマウスで同定された(1)。
: FIT1, FIT2があり,互いに50%アミノ酸配列が一致。それぞれ292および262アミノ酸から成る。
: 複数の膜貫通ドメインをもち,既知のタンパク質と相同性を示さない。
> マウス,ヒトFIT1のmRNA量は心臓と骨格筋で多く,タンパク質量は骨格筋で多い(1)。
> マウス,ヒトFIT2のmRNAとタンパク質は多くの組織に分布し,白色/褐色脂肪組織で多い(1)。
> FIT1は,mRNAもタンパク質もマウス脂肪組織や3T3L1で検出されない(1)。
HEK293やマウスで過剰発現すると,LDの量が増える(1)。つまり油滴形成を促進する機能がある。
左の写真は文献1より転載。左側2枚はFITを過剰発現していないマウスの肝細胞,右側2枚はアデノウイルスでFIT2を過剰発現した細胞。上はHE染色像,下はオイルレッドOによる脂質染色像。
右上では矢尻で示した白い部分,右下では赤い部分が油滴である。
なお,トリアシルグリセロール TAG の合成ではなく,TAGの油滴への移行が促進されることもわかっている。
> 3T3L1でノックダウンすると,油滴の形成が阻害される(1)。
> マウス骨格筋でFIT2を過剰発現すると,筋細胞内に油滴ができる(2)。
: このマウスは,筋肉でのβ酸化の活性は低下しているが,分岐鎖アミノ酸の酸化が亢進している。
文献1より転載。ゼブラフィッシュ稚魚のオイルレッドOによる脂質染色。
肝臓(点線),腸(実線),浮袋(矢印)に溜まっている脂質が,FIT2のノックダウン(FITmorph1と2)でなくなっていることがわかる。
したがって,FIT2はゼブラフィッシュでもLD形成に重要なタンパク質であることがわかった。