8-12-2014 updated
関連項目
Hydroxy-carboxylic acid receptor 1 (HCA1) は乳酸 lactate の受容体で,脂肪細胞では乳酸による cAMP 濃度の低下 を仲介する(図,文献8)。脳 brain でも発現しており,低血糖時などにおける脳機能の維持に関与していると考えられている。
> ヒトでは HCA2 と52%のアミノ酸同一率を示す(2)。
HCA1 の活性化は脂肪細胞で cAMP 量を低下させ,血中脂質を下げる効果がある。そのため HCA1 agonist は血中脂質を低下させる薬として有望である。
一方,HCA2 も脂肪細胞で同様に cAMP を低下させるので,そのリガンドであるニコチン酸 nicotinic acid も血中脂質を下げる効果がある(7I)。ただし,HCA2 の活性化は,表皮のランゲルハンス細胞 dendritic Langerhans cells に作用してプロスタグランジンD2 の放出を促進し,顔面紅潮 flushing を副作用として引き起こす。
したがって,HCA1 agonist を薬品として開発する場合には,HCA2 への親和性が低いことが重要な条件となる。
L-乳酸 の方が D-乳酸よりも親和性が高い(1)。
> EC50 は L-乳酸 1.30 ± 0.32 mM, D-乳酸 3.03 ± 0.21 mM(2)。
: ヒト HCA1 を stable に発現するCHO-K1 細胞で,35S-γGTP の膜画分への取り込みを指標に測定。
> L-乳酸は mouse primary cortical neuron の発火を抑制し,その IC50 は 4.2± 1.9 mM である(3)。
: GPCR の阻害剤 pertussis toxin で発火抑制が軽減されるので,HCA1 を介した作用と思われる。
: しかし,HCA1 との親和性の低いD-乳酸でもほぼ同じ IC50 で発火が抑制される。他の受容体?
3, 5-dihydroxybenzoic acid (3,5-DHBA) が,HCA1 特異的なアゴニストとして発見されている(5R, 右図は英文 Wiki)。
標識 GTP の取り込みを指標としたヒト HCA1, HCA2 への EC50 はそれぞれ 191 ± 26 µM および 10 mM 以上で,HCA1 に特異的なアゴニストである。
ヒト HCA1 の Arg71, Arg99, Glu166, Arg240 が結合に関与し,HCA2, 3 では Arg 71 が他の残基に置換されているために結合しないと考えられている(5R)。
さらに親和性の高い誘導体も報告されている(6R)。詳しくは 3,5-DHBA の詳細 へ。
約 700,000 種類の化合物から得られた N-(5-acet-amido-4-(2-thienyl)-1,3-thiazol-2-yl)-4-methylbenzamide (EC50 = 810 ± 93 nM)と,その類縁体 4-methyl-N-(5-(2-(4-methylpiperazin-1-yl)-2-oxoethyl)-4-(2-thienyl)-1,3-thiazol-2-yl)cyclohexanecarbo-xamide (EC50 = 58 ± 5.4 nM) が最近報告された(7R)。
どちらも HCA2 には結合せず,また in vivo でも機能することが確認されている(7R)。
> 2- および 4-hydroxybutyrate も HCA1 に結合し,EC50 はそれぞれ 8.5, 15 mM である(1)。
> Sodium propioinate の EC50 は 2.90 ± 1.20 と低いが,この血中濃度は 10 µM 以下である(2R)。
> ピルビン酸 pyruvate には結合しない(3D)。
> ヒト,げっ歯類では,白色/褐色脂肪組織に多く発現している(1)。
: 腎臓,骨格筋,肝臓でもわずかに発現。3T3-L1 の分化に伴い発現量が増える。
: ヒトとマウスの脂肪細胞ラインでは,PPARγ アゴニストの投与で発現量が増える。
> マウスでは,HCA1 の mRNA 量は脂肪組織で最も高く,脳の約100倍である(4)。
: とくに,小脳 cerebellum と海馬 hippocampus で mRNA 量が大脳皮質の約2倍と高い。
: WB では 39 kDa にバンドが認められ,糖鎖付加されていると思われる約 60 kDa のバンドもある。
> 細胞レベルでは,神経 neuron, astrocyte, 血管に分布しているが,神経での発現が最も高い(4)。
: Purkinje cell での高発現が免疫染色で確認されている。
> Gold particle を使った免疫染色。pre- & post-synaptic membrane で発現が多い(4)。
初代培養した神経細胞で,神経 neuron マーカー NeuN と共局在することが示されている(6, 右図, マウス primary cortical neuron を免疫染色)。
乳酸 lactate は,脂肪組織で発現している HCA1 への結合を介して脂肪分解 lipolysis を阻害する。この乳酸の由来として,従来は筋肉が想定されてきたが(可能性1),現在では脂肪細胞から放出される乳酸がオートクライン/パラクラインで作用していると考えられている(可能性2)。
可能性1
可能性2
> 129SvEv background の KO mice は,体組成などに大きな変化が現れない(7R)。
> Chow/high fat diet 下で NEFA が高く,isoproterenol による脂質動員が乳酸で阻害されない(7R)。
: 肝臓 TG 含量も高い。
> ob/ob mice では発現が低い。脂肪組織では,炎症でも発現が低下する(8I)。
: ob/ob では,肥満 obesity のため脂肪組織で軽い炎症が起きていると考えられている。