HIF-1α, hypoxia-inducible factor 1α, 低酸素誘導因子1α

9-26-2017 Last update

 

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  1. 概要: HIF-1 とは
    • 連続的な合成と分解のメカニズム
  2. 構造
    • bHLH/PAS domains
    • Trans-activation domain
  3. 修飾
  4. 標的遺伝子
    • 嫌気代謝へのシフト
    • ROS 発生の抑制
    • 細胞内 pH の制御
    • 発生など(個体・組織レベル)
    • 幹細胞
    • 炎症
    • 免疫応答

関連項目



概要: HIF-1αとは

HIF-1α は,低酸素誘導因子 HIF-1 の α サブユニットである。

 

HIF-1 は低酸素 hypoxia への適応に必要な遺伝子の転写を促進する転写因子 transcription factor で,α サブユニット(HIF-1α)と β サブユニット(HIF-1β)から成る。このうち α サブユニットは,以下のように水酸化修飾を受けて常に分解されており,HIF-1 全体の活性を制御するような機能をもっているため,注目されることが多い。

 

HIF-1 は,肝がん細胞株 Hep3B において 1992 年に発見され,1995 年に α と β のヘテロダイマーであることが報告された(4)。のちに,HIF-2α および HIF-3α も同定されている。HIF-3 は転写調節領域を欠いており,HIF-1 および HIF-2 を競合阻害していると考えられている(4)。


連続的な合成と分解のメカニズム

HIF-1 は,以下のようなメカニズムで 合成 ~ 分解を繰り返している。短い時間ですぐに低酸素に対応するために,このようなコストをかけていると考えられている(1I)。

 

  • 好気的条件下では,常に α サブユニット中の LXXLAP motif のプロリン残基 Pro が EG-9 によって水酸化修飾を受ける(1I)。
  • この水酸化は,VHL-1 (von Hippel-Lindau tumor suppressor protein-1) との親和性を上げる。
  • VHL-1 は E3 ubiquitin-ligase complex の一部で,プロテオソーム依存的な HIF-1 の分解を促進する。

 

> 低酸素状態では,酸素不足のため水酸化されにくくなり,分解を免れて転写活性を発揮する(1I)。

: 核に移行してから β サブユニットと 2 量体を形成し,DNA に結合する(5)。

: Cis-element は hypoxia response element (HRE) である(5)。

 

> 実際に,VHL-1 の変異体では,HIF-1 が常に高いレベルで存在する(1I)。

> この経路は C. elegans でも保存されている(1R)。

 

図は文献 1 より転載。



構造

bHLH and PAS domains

3 種のHIF-α および HIF-β は,いずれも N 末端側に basic-helix-loop-helix(bHLH)および Per-ARNT-Sim(PAS)ドメインをもっている(1I, 4)。 これらは DNA との結合に関わる領域で,HIF は bHLH/PAS ファミリーに属する転写因子に分類される。

 

β サブユニットは ARNT (aryl hydrocarbon receptor nuclear translocator) とも呼ばれる(1I)。

 

Trans-activation domain (TAD)

HIF-1α および 2α の C 末端側には,転写活性化に関わる trans-activation domain (TAD) がある。 TAD は一般に 2 つあり,N-TAD および C-TAD に分類されている(4)。

 

> C-TAD は,ヒストンアセチル基転移酵素 CBP/p300 をリクルートし,遺伝子発現を転写レベルで誘導する(4)。

: しかし,通常酸素下ではこのプロセスも抑制されている。

CREB-binding protein は C 末端付近の Asn を介して HIF-1 と結合する。

: しかし,この Asn 残基は酸素依存的に FIH-1 (factor inhibiting HIF-1) によって水酸化される。

 

 

一方,HIF-3α は C-TAD を,HIF-3α のスプライシングバリアントである IPAS は C 末端側を欠いており,HIF-1α および HIF-2α を競合阻害する機能を担っている(4)。


修飾

> 水酸化のほかに,リン酸化およびアセチル化による修飾も受ける(1I)。

 

 


標的遺伝子

HIF は,800 個以上の遺伝子発現を調節する重要な転写因子である(4)。標的配列として,hypoxia response element (HRE) が知られている。標的配列は 5-RCGTG という配列を含んでいる(1D)。

 

  • Transferrin (3)
  • VDCC (voltage-dependent calcium receptor) (4)

嫌気代謝へのシフト

低酸素環境に適応するため,ミトコンドリアの酸化的リン酸化を抑制し,嫌気的解糖を促進する(4)。

 

> 解糖系 glycolysis の活性化機構(4)。

: GLUT1 および GLUT3 を発現誘導し,グルコース glucose の細胞内取り込みを増大させる(6)。

: ピルビン酸 pyruvate を乳酸 lactate に変換する LDH の発現を増大させる(7I)。

: 解糖系の律速酵素である PFK1, HK2 を誘導する(7I)。

  

> 酸化的リン酸化の抑制(4)。

: HIF-1 は,pyruvate dehydrogenase (PDH) kinase 1 (PDK1) の発現を誘導する。

: PDK1 は PDH 活性を抑制するため,ピルビン酸からアセチル CoA への変換が阻害,TCA flux が低下する。

 

> ミトコンドリアの除去(4)。ミトコンドリアのオートファジーを促進する。

: HIF-1 はオートファゴソームの形成に関わる Beclin1 を解放する。

 

> エネルギー消費の抑制(4)。

: HIF-1 に誘導される REDD1 は,mTOR の抑制因子である TSC2 と 14-3-3 の結合を阻害する。

: REDD1 がフリーになり mTOR 経路が抑制される結果,翻訳が general に低下,エネルギー消費抑制。

 


活性酸素(ROS)発生の抑制

> 電子伝達系の機能を抑制し,ROS の発生を抑制する(4)。

: HIF-1 に誘導される NDUFA4L2 は,NADH デヒドロゲナーゼを抑制する。

: HIF-1 は低酸素用 COX4-2 を誘導,さらに COX4-1 を誘導するミトコンドリアプロテアーゼ LON も誘導。

: COX4-1 から COX4-2 への変換は,低酸素において電子の受け渡しを促進する。

 


細胞内 pH の調節

低酸素下では,嫌気代謝の結果として乳酸 lactate の細胞内濃度が上がるため,pH が低下する。これを防ぐために,HIF-1 は MCT4 を誘導し,乳酸を細胞外に排出する(4)。→ MCT1, 脳の乳酸代謝

 

また,低酸素で誘導される carbonic anhydrase 9 (CA9) は細胞外の二酸化炭素 carbon dioxide を水和し,H+ と HCO3- に変換する。HCO3- は細胞内に取り込まれ,pH をアルカリ側に傾ける。

 


発生など(組織・個体レベル)

> HIF-1 は erythropoietin (EPO) の誘導を介して造血を活性化し,赤血球を増加させる (3,4)。

: HIF-1 は,EPO を誘導する因子として最初に同定された。

 

> HIF-1 は,一般に血管形成を促進する(4)。

: VEGF (vascular endothelial growth factor) を誘導する (3,4)。

: bFGF, PDGFB なども HIF-1 の標的遺伝子である。


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References

  1. Shen et al. 2005a. Roles of the HIF-1 hypoxia-inducible factor during hypoxia response in Caenorhabditis elegans. J Biol Chem 280, 20580–20588.
  2. Patel & Simon 2008a (Review). Biology of hypoxia-inducible factor-2α in development and disease. Cell Death Differ 15, 628-634.
  3. Wenger 2002a (Review). Cellular adaptation to hypoxia: O2-sensing protein hydroxylases, hypoxia-inducible transcription factors, and O2-regulated gene expression. FASEB J 16, 1151-1162.
  4. 小林 & 原田 2013a (Review). 低酸素ストレスと HIF. 生化学 85, 187-195.
  5. Bruick 2003a (Review). Oxygen sensing in hypoxic response pathway: regulation of the hypoxia-inducible transcription factor. Genes Dev 17, 2614-2623.
  6. Berg et al. Biochemistry: 使っているのは 6 版ですが 7 版を紹介しています。
  7. Bensaad et al. 2014a. Fatty acid uptake and lipid storage induced by HIF-1a contribute to cell growth and survival after hypoxia-reoxygeneration. Cell Rep 9, 349-365.