Hormone-sensitive lipase, ホルモン感受性リパーゼ

2018/03/02 Last update

 

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  1. 概要: HSLとは
  2. 酵素活性
  3. 構造
  4. 活性の制御
    • 絶食時
  5. リン酸化
  6. ノックアウトマウス
  7. その他

関連項目

 

関係する遺伝子

  • リポタンパク質リパーゼ: LPL
  • ペリリピン: Perilipin
  • インスリン: Insulin
  • 成長ホルモン: GH
  • プロテインキナーゼA: PKA



ホルモン感受性リパーゼ HSL とは

脂肪細胞 adipocyte は,油滴 lipid droplet の中に貯めているトリアシルグリセロール TAG を必要に応じて TAG -> DAG -> MAG のように 脂肪分解 lipolysis し,生じる非エステル化脂肪酸 NEFA を血管へ放出する。 NEFA は筋肉などに運ばれエネルギー源となる。


ホルモン感受性リパーゼ HSL(EC 3.1.1.3)は DAG 分解の律速酵素 で,ホルモンによる lipolysis 制御の中核を担う酵素である。

トリアシルグリセロールの構造(文献 15 より転載)。 青の部分がグリセロール骨格,黒が脂肪酸である。 ここでは 2 つの飽和脂肪酸と 1 つの不飽和脂肪酸が結合しているが,実際には様々な種類の脂肪酸が結合できる。


脂肪酸が 1 つ切り離されたものがジアシルグリセロール DAG で,HSL の主要な基質である。


  • リン酸化で lipid droplet の近くへ輸送される(3)。
  • PKA, perilipinと共同で脂肪分解をするが,これが adipocytes 以外で保存されているかどうかは不明(3)。
  • 実際に,ペリリピンは脂肪細胞もしくは steroidogenic tissueでのみ発現している(3)。つまり,他の組織での lipolysis では HSL とペリリピンの共同作業が存在しないと思われる。

様々な HSL 分子

  • 哺乳類では,promoter の使い分けによって 3 つの isoform がある。サイズは 84 - 130 kDa(3)。
  • 多くの知見は脂肪組織を使った実験から得られており,言及がない場合は HSLadi についてのものと考えられる。
  • 精巣特異的な HSLtes があり,cholesteryl ester hydrolase として精子形成に必要(7)。

 

バクテリアも HSL に相同と考えられる分子をもっており,HSL の起源は非常に古いと考えられている。ただし,構造の一部が似ているだけで,その機能には大きな違いがありそうである。 

  • 哺乳類 HSL は,構造的に bacteria の type B carboxyesterase に似る(5)。
  • Bactarial HSL は一般に 34-40 kDa と小さく,哺乳類 HSL の C-terminal region に似る(9I)。
  • BFAE from Bacillus subtilis, lipase 2 from Moraxella TA 114などが HSL family protein(9I)。
  • Bactarial HSL は水溶性の短鎖脂肪酸は分解するが,エマルジョン中の長鎖脂肪酸はできない(9R)。
  • このことから non-lipolytic carboxyestelase と位置づけられる。ヒト HSLは lipolytic である(9R)。

> 他のリパーゼ(pancreasic lipase, lipoprotein lipase など)と相同性を示さない(14)。

: Exon 6 と他のリパーゼの相同性が著しく低く,ここがどこからか飛んできた mosaic protein かも。

: Exon 6 は phase I(コドンの一番目の塩基で切れる)の構造があり,これも mosaic protein の特徴。


酵素活性 Enzymatic activity


> HSL の酵素活性は広く,acylglycerol のほか cholesteryl ester, retinyl ester, steroid ester も分解する(3)。

: TAG : DAG : MAG に対する活性は,1 : 10 : 5 である(4)。

: Cholesteryl ester (CE) に対する分解活性は TAG の約 2 倍で,生理的にどのように働いているのか興味深い(3)。 


構造 Structure

遺伝子の構造

> HSLtes は,different promoter usage で5'側に特異的エクソンをもつ(7I)。

> 5' 側の isoform-specific exon が翻訳領域をコードするのは珍しい。大体は非翻訳領域。


> 哺乳類の脂肪組織,adrenal gland,卵巣では,転写は複数の exon (A, B, C, D, or exon 1) から始まる(4)。

: Exons B, C, D は非翻訳領域なので,どこから転写されるかはアミノ酸配列に影響しない。

: Exon A は 43 アミノ酸を HSL の N 末端側に付加する。


> 哺乳類の精巣では,2つの組織特異的エクソン(T1, T2)がある(4)。

: Exon T1 は,300 アミノ酸を N 末端側に付加する。T2 は非翻訳領域をコードする。

タンパク質の構造

> N-terminal domainはタンパク質相互作用 or 基質結合,C-terminal domainは活性ドメイン(4)。

> N-terminal domainは他のタンパク質と相同性を示さない。Cはbactarial HSLsに似る(9I)。

 

> Rat N-terminal domain (AA1-300) は,ダイマー化およびFABP4との結合に関与(4)。

> Rat C-terminal domain は Ser-423, Asp-703His-733から成る catalytic triad を含む(4)。

> Rat regulatory module (AA521-669) loop regionで,既知の全てのリン酸化サイトを含む(4)。

> Rat putative lipid binding domain は AA658 あたりにある(4)。



活性の制御

5' 上流域

> ヒツジ HSL の 5' 上流域(転写開始点から 1244 bp)にあった転写因子結合サイト(12)。

Stimulating protein 1 (Sp1), CCAAT-box Binding Factors (CBFs), Activator Protein 2 (AP2) and Glucocorticoid Receptor (GR), as well as other cis-acting regions denominated as Insulin Response Element (IRE), Glucose Response Element (GRE), Fat Specific Element (FSE) and cAMP Response Element (CRE).

cAMP

> 3T3-F442A および BFC-1 脂肪細胞では,cAMP または PMA 処理で HSL の mRNA 量が低下する(13)。

: PMA (phorbol 12-myristate 13-acetate) は,PKC の活性化剤である。

: cAMP-PKA 経路,PKC 経路による HSL の活性化を考えると意外な結果。フィードバック?

: 短期の飢餓では,HSL の mRNA 量が低下するという報告も引用されている(13D)。

ホルモンによる制御

グルカゴン glucagon および カテコールアミン catecholamine によって活性化される。PKA シグナルを介した作用であることがよく知られている。


> 成長ホルモン growth hormone によって,ニジマス肝臓の HSL がリン酸化される(16)。

: 哺乳類でも示されているのか?

: PKC, ERK を介する経路に依存することが阻害剤を使って示されている。


リン酸化 Phosphorylation

Rat HSLのリン酸化サイト

Ser563: PKA (3,4), glycogen synthase kinase-4 (4)

 

> site 1, regulatory siteとも呼ばれる(4)。

> 563のみ,または563と565をAlaに置換しても,活性は失われない(4)。

> protein phosphatase 2A (PP2A) とPP2Cに脱リン酸化される(4)。

 

Ser565: AMPK (11), Ca2+/calmodulin-dependent protein kinase II (4)

 

> Site 2, basal siteとも呼ばれる(4)。ここのリン酸化は活性を負に制御するかもしれない。

> かつては活性に影響なしとされていたが,ここに変異を入れると活性がわずかに上昇する。

> AMPKによってリン酸化されると,lipolysis が阻害される (11。

> 主にPP2Aに脱リン酸化されるが,PP1およびPP2Cも重要かもしれない(4)。


Ser600: Erk (3,4)

Ser659: PKA  (3, 4)

 

> Ser660とともに新しく発見されたリン酸化サイト(4)。活性に必要。変異を入れると活性がなくなる。

 

Ser660: PKA  (3, 4)

Human HSLのリン酸化サイト

Ser 554: (rat Ser565 に相当); 

Ser553 と書かれているが,この AMPK によるリン酸化サイトは,それ自体は活性に関係なく,Ser552 のリン酸化を阻害する。

生物種未詳

 

> Ser659 および 660 が PKA にリン酸化され,活性化する。ここに変異を入れると活性がなくなる(3)。

> Ser563 も PKA site であるが,その機能は不明である(3)。

カテコールアミン,Erk によって Ser600 が,AMPK によって Ser-565 がリン酸化される(3)。

> Ser423 を置換すると,esterase 活性も lipase 活性もなくなる(4, cited from Holm et al. 1994)。

 

 


ノックアウトマウス Knockout mice

> KO miceの体重およびWAT重量は正常(1D)。WATは小さいという報告も(8)。

> HSL-deficient mice are lean, and they effectively mobilize FFAs from TG (2I).

 

> KO miceでも basal lipolysis は起こる。これはHSLの他にも lipase があることを示唆する(3)。

: KOではDAGが蓄積するので,HSL以外の lipase はTAG lipaseであることが予想される(3)。

: のちに,TAGの分解活性が高いadipose tissue triglyceride lipase (ATGL) が発見されている。

 

> DAG 分解活性は,wtの1/20から1/30程度(1)。

高脂肪食を与えた場合

 

> 高脂肪食で一般に体重は増えるが,HSL-/-は増え具合がwtよりも穏やか。BATでの脂質燃焼が活発(8)。

> normal chowおよびhigh-fat dietを与えたHSL-/-は,白色脂肪組織がwtよりも小さくなる(8)。

> HSLはWATでPPARgのリガンドを作っており,KO miceでは脂肪細胞の分化が抑制されるためと考えている。

> high-fat diet を与えた KO mice の BAT では脂質の燃焼が wt より活発。コレステロールの蓄積が原因か? (8)

 


その他未整理

> KO miceでは血中 NEFA 量が減り,筋肉や心臓でのインスリン感受性が増大する(5)。

> HSL-/- mice は血中 NEFA 量がnormal chowでもhigh-fat dietでも低い(8)。

> HSL-/- mice は不妊である(7I)。

> Drosophilaの油滴タンパク質のリン酸化にも cAMP, PKA が関与。哺乳類lipolysisと似た機構がある(10)。


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References

  1. Haemmerle 2002. JBC, 277, 4806-4815.
  2. Haemmerle 2006. Science, 312, 734-737.
  3. Holm 2003 (Review). Biochem Soc Transac, 31, 1120-1124.
  4. Lampidonis et al. 2011aR (Review). The resurgence of Hormone-Sensitive Lipase (HSL) in mammalian lipolysis. Gene 477, 1-11.
  5. Laurell 2000. Protein Engineering, 13, 711-717.
  6. Park 2005. Am J Physiol Endocrinol Metab, 289, E30-E39.
  7. Vallet-Erdtmann 2004. JBC, 279, 42875-42880.
  8. Harada 2003a. Am J Physiol Endocrinol Metab, 285, E1182-E1195.
  9. Chahinian 2005a. BBA, 1738, 29-36.
  10. Schlegel 2007a (Review). Lessons from "lower" organisms: what worms, flies, and zebrafish can teach us about human energy metabolism. PLoS Genet 3, e199. 
  1. Daval et al. 2005a. Anti-lipolytic action of AMP-activated protein kinase in rodent adipocytes. J Biol Chem 280, 25250-25257.
  2. Lampidonis et al. 2008a. Cloning and functional characterization of the 5' regulatory region of ovine hormone sensitive lipase (HSL) gene. Gene 427, 65-79.
  3. Plee-Gautier et al. 1996a. Inhibition of hormone-sensetive lipase gene expression by cAMP and phorbol esters in 3T3-F442A and BFC-1 adipocytes. Biochem J 318, 1057-1063.
  4. Langin et al. 1993a. Gene organization and primary structure of human hormone-sensitive lipase: possible significance of a sequence homology with a lipase of Moraxella TA144, an  antarctic bacterium. PNAS, 90, 4897-4901.
  5. Molecular Biology of the Cell, 5th edition.