IGF-I は主に肝臓で合成されるペプチドホルモンで,動物の成長を促進する作用がある。
> タンパク質不足により肝臓での合成と血中量が低下し,成長の遅延を招く(5)。
: とくに幼児でみられる栄養障害,クワシオルコル kwashiorkor の症状である。
血中 IGF-I の大部分は肝臓で合成されるが,それは成長にはほとんど寄与しないことが文献1によって示されている。
肝臓特異的に IGF-I をノックアウトしたマウスは,血中IGF-I量が75%低下する。しかし,右図(文献1より)に示すように体重は低下しない。
なお,このマウスでは IGF-I による negative feedback がなくなるため,成長ホルモン量はやや上昇している。
しかし,この肝臓特異的 IGF-I ノックアウトマウスは,成体になると体重が野生型よりも少なくなり,さらにメスは寿命 lifespan が長くなる(下図,いずれも文献2より)。
筋肉では IGF-I 遺伝子が発現しており,パラクラインまたはオートクラインで作用している。細胞分裂の促進,筋線維の肥大,タンパク質合成など,原則として筋肉組織を維持,肥大する方向に働く。
> 筋衛星細胞 satellite cell の分裂と,筋線維への融合を促進(1I)。タンパク質合成も促進。
>
> デュシェンヌ型筋ジストロフィー Duchenne muscular dystrophy のモデルマウスで筋萎縮を抑制(1R)。
: 進行性筋ジストロフィーでは最も多い病気で,ジストロフィン dystrophin 遺伝子の欠損による。
: ミオシン軽鎖 1/3 プロモーターで筋肉IGF-Iを2倍程度に増やすと,症状が改善した。
: 具体的には筋線維数および太さの増大,線維化の抑制,収縮力の増大など。
Condition(部位,条件など) | Animal | IGF-I (ng/g) | Ref |
体重約 25 g, 3ヶ月齢,limb muscle, 対照群 |
Mouse |
9 ± 1 |
3 |
上記のマウスにミオシン軽鎖 1/3 promoter で強制発現 |
Mouse |
16.2 ± 2 |
3 |
|
|
> ヒトでは,老化に伴い血中IGF-I量が低下する(4)。
: インスリン量は,末梢が徐々にインスリン抵抗性になるために上昇する。
> インスリン/IGF-I シグナル(IIS)が低いと,老化に伴う認知能力の低下が遅くなる(4)。
: IIS の低下が寿命を延ばすことは多くの生物で知られている。
: C. elegans では,IIS mutants が improved thermotaxis learning behavior を示す。
: Drosophila では,chico mutant で記憶力および運動能力の低下が遅くなる。
: GHR KO mouse でも,老化に伴う記憶力の低下が遅くなる。