2022/05/08 Last update
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乳酸デヒドロゲナーゼ LDH (EC 1.1.1.27) は,ピルビン酸 pyruvate と乳酸 lactate の転換を触媒する酵素である。補酵素 coenzyme として NADH を必要とする。
低酸素 hypoxia などの嫌気的条件下でこの反応が活性化する。解糖の結果生じたピルビン酸は,酸素が豊富な条件では TCA 回路へ入ってさらに酸化されるが,低酸素のときはこの反応によって乳酸になる。結果として NAD+ が再生され,TCA 回路が回りやすくなる。
この反応は典型的な sequential ordered reaction であり,以下の順に結合が起こる(1)。
これに対して,順番が適当でよい反応は sequential random reaction といい,クレアチンキナーゼがホスホクレアチンと ADP から ATP を合成する反応などが sequential random reaction にあたる(1)。
上記の sequential reactions では,全ての基質が結合してから,反応生成物 P が解離する。これに対して,全ての基質が結合する前に P の解離が起こる反応を double-displacement reaction (or ping-pong reaction) という。
この反応では,アミノ基の転移反応のように酵素自身が一時的に modify されるのが特徴である。タンパク質,酵素,酵素反応の基礎について勉強したい人は,以下のリンクも参照のこと。
哺乳類では H type および M type の2種の 35 kDa サブユニット 4 分子から成る(1)。
したがって,完成型の LDH には,H4, H3M1, H2M2, H1M3, M4 という 5 通りのパターンがあることになる。
H タイプ | M タイプ | |
分布 | 心臓に多い。 | 筋肉に多い。 |
基質親和性 | 高い | 低い |
H4 は高濃度のピルビン酸によるアロステリック阻害を受ける。
乳酸 → ピルビン酸の反応を触媒 |
M4 は高濃度のピルビン酸によるアロステリック阻害を受けない。
ピルビン酸 → 乳酸の反応を触媒 |
これらの isozyme は,H タイプは好気型,M タイプは嫌気型であると考えることができる。実際に,発生段階では嫌気代謝から好気代謝へ切り替わるので,ラット心臓では発生初期では M タイプが多いが,次第に H タイプへ切り替わることが報告されている(1)。
> LDH と,D-乳酸 D-lactate の脱水素酵素である DDH の活性を比較したデータ(2R)。
: ミトコンドリアを抽出し,dichloroindophenol (DCIP) の還元量を比較している。
: DDH 活性は,酵素溶液にD-乳酸を加え,DCIP 還元物の低下量から算出している。
: 肝臓で約 60 µmol DCIP/min/mg protein と高く,脳 brain と心臓 heart では20程度と低い。
: このため,脳と心臓ではD-乳酸をうまく使えないが,肝臓では有効なエネルギー源にできる。
LDH は細胞内タンパク質であるが,細胞が障害を受けると血液中に放出される。このため,血中 LDH 量が細胞障害の指標として用いられることがある。
たとえば,心臓に特異的な H4 isozyme が血液中に検出された場合,心臓発作などによって心筋がダメージを受けていることが示唆される(1)。