レプチン leptin は 成熟脂肪細胞から分泌 され,食欲 appetite や代謝の制御を行う分子量約 16 kDa のペプチドホルモンである。 視床下部 hypothalamus などに作用して 食欲を抑制 する作用をもつことから,満腹ホルモン などとも呼ばれる。
レプチンの機能は,短期作用と長期作用に分けて考えることができる。長期作用の方が重要とする意見がやや優勢である。
レプチンは,短期でも長期でも,原則として肥満にならない(エネルギーを消費する)方向に働く。すなわち,食欲を抑制するとともに交感神経の活動を亢進させ,活動性の亢進,体温上昇,脂肪燃焼の促進などの作用を示す(4I)。
肥満 obesity 症状を示すマウスの系統 ob/ob mice の原因遺伝子として同定された。つまり,レプチンが欠損していると右の写真のように極度の肥満を呈するということ。
レプチン受容体 leptin receptor の変異体 db/db mice も同様に肥満になる。フレームシフトによる遺伝病も知られている(8)。
レプチンを作れないマウス(左)と通常のマウス(右)。画像は 8 より。
以下のようなレプチンの機能が列挙されている(16)。
短期作用に関する知見の多くは,レプチンを注射する実験から得られている。
レプチンは成熟脂肪細胞から分泌されるホルモンであり,血中レプチン量は脂肪組織 adipose tissue の量と相関する(8)。
肥満者の多くは,脂肪細胞が多いために血中レプチン濃度が高い。しかし,食欲も正常体重者より高く,脂肪燃焼も血中レプチン濃度から考えられるほど行われていない。
これは一見矛盾のようであるが,肥満者はレプチンが脳に作用しにくくなっている状態,すなわちレプチン抵抗性に陥っているためと理解することができる。
哺乳類では,脂肪細胞でのレプチン産生は転写,翻訳,貯蔵,分泌と多くの段階で制御されている(9)。
> 摂食,とくに食事中に含まれるロイシン Leu が食後の血中レプチン量を増加させる(10)。
> EPA(11)
> インスリン(12)
> グレリン(13)
> 女性ホルモンのエストロゲン estrogen は,レプチンの分泌を促進する(4D)。
: 一般に血中レプチン量は男性よりも女性の方が多い(16)。
> 絶食(14)
> 成長ホルモン(15)
食欲を抑制する方向に働く。メカニズムは,視床下部への作用と,中脳 midbrain での報酬系 reward system への作用に分けて考えることができる(1I)。大脳皮質 cortex も影響を受けるようである。
> 食物による報酬系 reward system の活性化を打ち消す方向に働く(5)。
> Insula, parieta/temporal cortex の空腹に伴う活性化を抑制する(1I)。
> Prefrontal cortex で満腹に伴う活性化を増やす(1I)。
> Prefrontal cortex で,食べ物の写真による fMRI シグナルの活性化を促進する(2)。
: PFC は高次の脳機能を司る部位で,この場合は食べたい気持ちを抑制していると考えられている。
> Arcuate nucleus で neuropeptide Y neurons を抑制し,食欲を減衰させる(16)。
> AMPK をリン酸化して活性化する(3D)。
> STAT, JAK2, SOCS3 などがシグナル伝達に関与する(8)。