11-24-2014 updated
このページには麻酔薬の簡単な説明があり,目次のリンクをクリックすると詳細ページに飛びます。i.p. は腹腔注射,i.v. は静脈注射,s.c. は皮下注射を示します。動物ごとの注意点はこちら。
麻酔法では,「手術や治療の際の苦痛を取り除くため,痛みの感覚を一時的に消失させること」と定義される(文献13で確認)。
麻酔は局所麻酔(表面麻酔,浸潤麻酔,伝達麻酔,脊椎麻酔)と全身麻酔(静脈麻酔,吸入麻酔)に分類できる(6)。
動物実験では,適正な鎮静,鎮痛および麻酔を行うことは,実験動物の福祉において不可欠であり,それぞれの麻酔の特徴をよく理解し,最適なものを選べるようにするべきである(6)。
正常の睡眠と似た中枢神経抑制状態を起こす薬である(12)。主に GABA 神経系の増強による。
鎮痛薬(鎮痛剤)は,広義では痛覚が発生するまでの経路のどこかを遮断する薬物,狭義ではオピオイドと解熱鎮痛剤を意味する(12)。
一般に,麻酔は postsynaptic transmission,つまり神経 neuron の情報伝達を阻害するものである。これには,
の2つのメカニズムがある(10I)。
前者では,神経伝達物質の放出に関わる電位依存性ナトリウムチャネル VGSC,カルシウムチャネル,カリウムチャネルなどの結合阻害が主なメカニズムである。
後者では,ベンゾジアゼピン系およびバルビツール酸系の麻酔薬が有名である。これらは GABAA受容体の異なる部位に結合し,抑制性の神経伝達を活性化することで麻酔作用を発揮する。
重要なことは,それぞれの分子に対する麻酔薬の特異性があまり高くないことである(10I)。たとえば,VGSC blocker の多くはカルシウムチャネルやGABA受容体にも結合する。したがって,麻酔薬の作用機序を正確に決定することは困難であり,使用方法は主にメカニズムでなく表現型レベルの知見に基づいて決定されている。
腹腔注射は簡便で,(動物が対象の場合)体の固定が最小限ですむというメリットがある。しかし,効果がばらつくために多目に麻酔薬を投与しなければならず,よってマージンの大きい麻酔薬を使うことが必要である(11)。
局所麻酔薬
> 中枢神経系の実験に使われることが多い。麻酔作用が長時間(6 - 10時間)持続するのが特徴。
> 心血管系と呼吸器系の抑制は最小である。
> 発ガン性があるため取り扱いに注意。
> 水に溶けにくいので,調製の際は pH 調製のためにホウ酸ナトリウム sodium borate を加える。
> ラットでよく使われ,腹腔内に 55 - 65 mg/kg 体重 で投与する(6)。
> ウレタン urethane と同様に循環器系や呼吸器系への影響が少ない(6)。
麻酔薬ではなく,鎮静・鎮痛剤である(4)。塩酸メデトミジンを主成分とし,α2‐アドレナリン受容体を標的とする。軽処置や術前の鎮静に使用される(4)。
> 鎮静・鎮痛効果が非常に高く,また拮抗薬があるために速やかに麻酔から覚ますことができる。
> 心拍数が通常の1/2から1/3程度まで低下する。
イギリス英語では Pentobarbitone である。
よく使われる麻酔薬であるが,鎮痛作用はほとんどなく,麻酔効果は不安定(6)。また,意識喪失の状態を得る容量が致死量に近く,呼吸抑制作用をもつために死亡事故のリスクが高い(6)。
これらの特徴から,本剤の単独投与による全身麻酔は不適切である(6)。安楽死薬としては推奨されている。
ステロイド系麻酔薬。
VGSC, カルシウムチャネル,GABAA受容体への親和性を比較した文献(10)では,もっともGABAA受容体への親和性が高い。
電位依存性ナトリウムチャネル VGSC のブロッカー。局所麻酔作用は,最も強いとされるテトラカイン tetracaine よりもやや劣るが,毒性が弱いために広く利用されている。
電位依存性ナトリウムチャネル VGSC のブロッカーで,特異性はリドカイン Lidocaine よりも 10倍以上高い(10)。しかし,作用が強く副作用も多いために使用法は限られている。
GABAA受容体作動薬であるが,電位依存性ナトリウムチャネル VGSC のブロッカーとしても作用する(10)。マイケル・ジャクソンがこの薬の副作用で死亡したことでも有名。
> VGSC blocker BTX-B を競合阻害する際の IC50 は 28.1 µM である(3)。
> GABAA受容体作動薬 TBPS を競合阻害する IC50 は 9.2 µM で,同時に作用していると思われる(3)。
> 静脈注射 intravenous infusion で使用。副作用が少なく,広く使われている(11I)。
: 静脈注射後に注入部位の痛みを訴える例があり,鎮痛作用については controversial である。
> 気化および麻酔導入が速いのが特徴であるが,覚醒も速い。
> 心血管系の抑制作用をもち,血圧低下を引き起こす。
> 刺激性および引火性はない。
> 肝臓で代謝されてしまうのが特徴で,麻酔導入後には肝臓ミクロソーム酵素の顕著な誘導がみられる。
> 麻酔の導入および覚醒は早い。
> ハロタンよりもやや重篤な呼吸抑制があるが,心血管系に及ぼす影響は少ない。
> 刺激性および引火性はない。
> ハロタンよりも生体内での代謝が少ないことから,広く使われている吸入麻酔薬である。
1840年からの吸入麻酔の始まりとともに使われ始めたが,引火性,気道刺激性に伴う副作用などがあるため,現在では吸入用麻酔薬として不適切であると評価されている(6)。麻酔薬としては既に市販されていない。
単独での麻酔効果は弱いが,鎮痛効果が強いという利点がある。そのため,他の麻酔薬と併用する麻酔補助薬と位置づけられている。
ただし,温室効果を示すことや,術後に不快症状を生じることなどから,近年ではあまり用いられなくなってきている全身麻酔薬である。