8-9-2014 updated
ネズミの尾の長さの話(1)
ある遺伝子に変異があるマウスと野生型のマウスで,尾の長さを比較したい。それぞれの群から1匹ずつを選び,尾の長さを20回ずつ測って SD と SE を算出した。これは n = 20 と言えるか?
遺伝子の変異の影響を知りたい場合,これは n = 1 と考えるべきである。それぞれの群から1匹ずつを選んでいるため。
細胞培養で異なるウェルを使った場合(1)
チューブの中にある細胞を1枚の6ウェルプレートにまいた。3ウェルに試薬Aを,残りの3ウェルに試薬Bを加えて2日間培養し,3日目に数を数えた。試薬A, Bが細胞増殖に及ぼす影響を調べるために,それぞれ n =3 として SD, SE を計算し,統計検定を行った。この場合の n はいくつだろうか?
この場合,ネズミの尾の長さよりは n =3 に近い気がしてしまうが,n = 1 と考えるべきである。この SDは細胞の質によるバラツキではなく,播種する際のピペッティングのバラツキを表しているためである。
もう少し具体的に,証明したい仮説を考えてみてもよい。この細胞が 293T だったとして,あなたがこの実験で証明したいのは,例えば「試薬Aの増殖促進効果は(この世の全ての)293T cell line に対して試薬 B の2倍である」ということであって,「試薬Aの増殖促進効果は(私が実験に使った)293T cell line に対して試薬 B の2倍である」ではないはずである。
前者の場合,母集団 parent population はこの世の全ての 293T cell line であるため,そのうち1つだけの cell line を使った上記の実験では n = 1 である。
もし証明したい仮説が後者ならば(普通はそんなことはないが),上記の実験は n = 3 になっていると考えてもよいのだろうか? この場合は母集団が n = 1 なので,標本をとるという概念がそもそも無効になり,サンプル数の n という概念もなくなるのだろう。測定数の n という意味ならば,確かに n = 3 であろう。